米大統領選でドナルド・トランプ氏が勝利し、次期大統領に内定してからというもの、これからの日米関係や経済がどうなるのか、盛んに論じられている。様々な経済政策をトランプ氏は開陳しているが、果たしてそれはどんな効果をもたらすのか。経営コンサルタントの大前研一氏が、トランプ流の保護主義的な貿易政策について解説する。
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アメリカのドナルド・トランプ次期大統領とニューヨークのトランプ・タワーで会談した安倍晋三首相は「トランプ氏は、まさに信頼できる指導者だと確信した」そうである。しかし私は前号で、トランプ氏は大統領選挙中の公約をほとんど実現できない可能性が高く、もし公約通りの政策を実行すれば、アメリカと世界は大混乱に陥るだろう、と述べた。
たとえば、トランプ氏は貿易政策について「就任初日にTPP(環太平洋経済連携協定)から離脱する」「NAFTA(北米自由貿易協定)の再交渉ができなければ脱退する」などと極めて保護主義的な姿勢を示し、日本に対しても「日本がアメリカ産牛肉に38.5%の関税をかけ続けるなら、我々も日本車に同率の関税をかける」と主張している。
しかし、日本自動車工業会の統計によると、日本の自動車メーカーはアメリカで約385万台(2015年)を現地生産している。一方、オートデータの統計によれば、日本の主要自動車メーカーのアメリカにおける新車販売台数は約657万台(同)である。つまり、すでに日本の自動車メーカーはアメリカで新車販売台数の6割近くを現地生産しているのだ。
関税が高くなったら現地生産を増やせばよいだけなので、トランプ政権が日本車にアメリカ産牛肉と同率の関税をかけたとしても、ほとんど意味はないのである。