朝鮮半島には活火山は一つもないが、麓で温泉が出ているはるか北方の中朝国境の休火山、白頭山の“大噴火説”まで韓国人は気になりだしている。近年、中国サイドから「微動がみられる」というニュースがあるからだ。白頭山は10世紀に大噴火した記録がある。その噴火で麓にあった「渤海国」が滅び、火山灰は日本の東北地方にも堆積の痕跡を残している。
ただ、白頭山噴火の影響となると韓国より北朝鮮だ。そこで朝鮮民族の祖先を生んだ「民族の霊峰」とされる白頭山の怒りが、金正恩体制に鉄槌を下すことを逆に期待する“噴火説”にもなっている。
地震では1976年、M7.8の直下型地震で公式発表24万人、実際はその倍以上の死者が出たといわれる、中国・唐山市の地震が韓国にとっては気がかりだ。場所が朝鮮半島のすぐ西だからだ。
韓国は住んでみれば分かるが、自然災害がきわめて少なく、自然が穏やかである。そのせいで人びとの関心、心配は「天災より人災」といわれる。人災の最たるものは戦争であり、それにつながる政治である。だから「自然は穏やかなのに人は激しい」のがこの地なのだ。
地震をはじめ自然災害が少なかった韓国は、いわば“安全コスト”抜きだったためここまで短期間に発展したともいえる。低成長時代を迎え、さらに対北朝鮮コストも増えるなか、これまでのような「反日で心が癒される」という気楽な時代は終わったのだ。
文■黒田勝弘
【PROFILE】1941年生まれ。京都大学卒業。共同通信ソウル支局長、産経新聞ソウル支局長を経て産経新聞ソウル駐在客員論説委員。著書に『決定版どうしても”日本離れ”できない韓国』(文春新書)、『韓国はどこへ?』(海竜社刊)など多数。
※SAPIO2016年12月号