「二役みたいなものですよね。将軍の時は所作を大事にしました。その前から歌舞伎を見て、偉い人の座り方や立ち振る舞いを参考にしています。旗本の時は現代劇でいいと思っていました。町人と付き合う時は対等な方がいいと思い、所作はあまり気にしませんでした。普段通りを心がけましたね。

 峰打ちは、『将軍は人を斬らない』という発想でした。ただ、『打つ』だけでは画にならないので、決めるところだけは打つ動きをしましたが、他は普通の『斬る』立ち回りと同じ動きをしています。刀の反りが逆ですので、斬って抜ける動作が大変でした。

 東映は美しさで見せる、踊りのような立ち回りです。ですので、刀を抜いて峰に返す動きを大きくして、ちょっとくさいポーズをとったりしています。あれが見せ場ですから」

 シリーズは、25年もの長きに及ぶ人気作となった。

「シリーズが始まった頃は、時代劇の主役は名のある人ばかりで、僕みたいな新人はいませんでした。それで、周囲の声が聞こえてくるんですよ。『こんなのは三か月ももたないやろ』みたいな噂が──。それが、かえってエネルギーになりました。

 長く続ける上で心がけていたのは、爽やかさです。やはり、吉宗は青年将軍ですから。その爽やかさを失わないように、いつも新鮮な気持ちで現場に臨むようにしていましたね」

●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。

◆撮影/藤岡雅樹

※週刊ポスト2016年12月2日号

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