「電球替えるんでも植木を切るんでも、てるさんは何かとシルバー人材センターに頼むんです。お金もかかるでしょう、と聞いたら、“美隆さんがやって怪我したら嫌ですから”って。“美隆さんが健康でいてくれることが何よりも嬉しい”と話していました。あとは何も望んでいない、って。夫を名前で呼ぶこともそうですけど、何より夫のことを心から嬉しそうに話すてるさんの姿に深い夫婦愛を感じました」(別の近隣住人)
健康で仲の良い老夫婦として知られていた美隆さんとてるさんだが、異変が起きたのは死の直前、11月中旬のことだった。前述の喫茶店店主、中島さんが証言する。
「体力が落ちていて、うちの入り口のドアを開けるのも一苦労でした。顔色もよくなかった。“美隆さんが調子悪くて、今日は家で『おさんどん』しなきゃいけないのよ”って言っていました。旦那さんの不調に当てられたのかな…。彼女自身もだいぶ弱っていました」
行きつけの銭湯でも、11月から夫婦の姿が見られなくなっていた。同銭湯では区と協力し、第二第四水曜に健康体操の教室を開いており、彼女は初回から皆勤賞だったが、11月は欠席していた。
周囲の心配が募る最中、21日に遺体が発見──。
「死後数日発見されなかったことは残念ですが、苦しんだ様子はなかったとのことでした。ふたり安らかに逝ったのだとすれば、せめてもの救いです」(前出・近隣住人)
夫婦の遺体は火葬され、遺骨はてるさんの教会に預けられるという。
「教会にもお墓はございますが、キリスト教では“墓地に眠る”とはいいません。お墓への納骨はあくまで通過点です。天に召され、安らかに憩わんことを願い、見送ることが本懐であります」(教会関係者)
中国の故事成語に「偕老同穴(かいろうどうけつ)」という言葉がある。共に老い、死後は同じ墓穴で葬られることから転じて、極めて強く結びついた夫婦の生涯を意味する。
板橋の老夫婦は老いと墓穴のみならず、死の瞬間まで共にした。
※女性セブン2016年12月15日号