◆「脳に血液が行き渡らない」
高血圧や糖尿病、肥満などの生活習慣病が認知症につながるというデータは、近年次々と明らかになっており、生活習慣病の治療薬である降圧剤が認知症予防につながるというロジックは確かに、筋が通っているように聞こえる。
その一方で高血圧患者を戸惑わせるのは、専門家から“正反対の説”―つまり、「降圧剤は認知症をまねく」という説明がなされるケースもあることだ。『高血圧はほっとくのが一番』の著書がある、サン松本クリニックの松本光正院長の話。
「脳へ血を流すには重力に逆らう必要があり、血管のポンプ機能が低下した高齢者が降圧剤で血圧を一気に下げると、脳の末梢部に十分な血液が行き渡らなくなる恐れがあります。それが脳梗塞や認知症のリスクを高めることにつながると考えられます。
私が知っている70代の患者さんは、血圧が140でとくに高くもないのに他の医師から降圧剤を処方されて飲んでいたところ、2年も経たないうちに認知症を発症してしまいました」
こんな研究データも存在する。イタリアで認知症を扱う2つのクリニックが、高齢の軽度認知症患者172人を約9か月経過観察し、血圧と認知機能の低下の関連を検証した。その結果、降圧剤で血圧が低くコントロールされた患者ほど、認知機能が低下したというのだ。北品川藤クリニックの石原藤樹院長が解説する。
「この研究では、日中の血圧の平均値を『128以下』『129~144』『145以上』の3グループに分けて比較検討しています。その結果、『128以下』のグループでは他の2グループに比べて認知機能の低下が有意に大きかったのです」
薬で血圧を下げると認知症を防ぐのか、まねくのか。両説とも説得力があるように聞こえる。