安倍首相は昨年からしきりに「戦後政治の総決算」を強調し、アメリカ・オバマ大統領の広島訪問、ロシア・プーチン大統領との平和条約交渉、さらに年末のハワイ真珠湾訪問と、それを目指した外交を矢継ぎ早に展開している。
だが、もともと「戦後政治の総決算」というスローガンを使ったのは30年前の中曽根元首相である。安倍首相はその中曽根元首相の通算在職日数を超えたわけだが、政治家としての評価は別だ。今のところ、安倍首相は中曽根元首相の足元にも及ばないと思う。
今さら説明するまでもないが、首相としての中曽根氏の功績は、まず外交では、当時のアメリカ・レーガン大統領との間で「ロン・ヤス」と呼び合う信頼関係を構築して日米が「イコールパートナー」になることを目指し、それを可能な限り達成したことである。
国内でも、レーガン大統領やイギリスのサッチャー首相に倣い、規制撤廃と3公社(日本国有鉄道、日本電信電話公社、日本専売公社)の民営化などを、臨時行政改革推進審議会(行革審)会長を務めた土光敏夫氏や国鉄再建監理委員会委員長に起用した亀井正夫氏らと共に、文字通り命がけで成し遂げた。まさに「戦後政治の総決算」である。
それに対して安倍首相はどうか? 私に語っていた憲法改正への決意は、2014年の衆議院選挙と昨年の参議院選挙で「改憲勢力」が3分の2以上の議席を獲得したことで一気に前進するかと思われた。参院選後の新聞各紙も「改憲勢力が3分の2議席を獲得し、国会で改憲を発議する要件が整った」などと伝えたが、細かく比較してみると、微妙に表現が違っていた。
現実には安倍流の改憲(自民党の改憲草案)に対する国民の本能的な反感を察知して時期尚早と判断したのか、改憲論議については参院選から半年過ぎても、事実上“放置”している。
その一方では「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「投資を喚起する成長戦略」というアベノミクス「3本の矢」についてきちんと総括しないまま、「1億総活躍社会」なるものを実現するための「強い経済」「夢をつむぐ子育て支援」「安心につながる社会保障」という「新3本の矢」を発表した。その時の相手関係や世論の空気を読みながら、昨日までのことは忘れて今日求められたことを厚顔無恥に言ってのけ、結果については頓着しない。
だから、その主張には一貫性がなく、まるでカジノのルーレットのように、投げた玉が止まるまで、当たりと外れのどちらに転ぶかわからないのである。