たとえば、当初、安倍首相は「戦後レジームからの脱却」を標榜し、アメリカを慌てさせた。アメリカが作った戦後秩序を見直し、第二次世界大戦の戦犯を裁いた極東国際軍事裁判(東京裁判)についても「勝者の判断によって断罪された」との見解を披瀝したのである。
ところが、それで警戒したアメリカに冷たくされて二進も三進もいかなくなったら、結局、アメリカ議会で「日本にとって、アメリカとの出会いとは、すなわち民主主義との遭遇でした」「戦後世界の平和と安全は、アメリカのリーダーシップなくして、あり得ませんでした」などと歯の浮くような演説を行ない、戦後レジームからの脱却どころかアメリカべったりの土下座外交、朝貢外交に転じてしまった。
その延長線上に出てきたのがハワイ真珠湾訪問であり、今や日米関係はイコールパートナーではなく、日本がアメリカに隷従する中曽根政権以前の時代に戻ったのである。
しかも安倍首相は、アメリカの力を背景に強硬姿勢で中国に対峙していくという新しいパワーバランスのかたちを作ろうとしている。これは、いくら反日・嫌日であっても中国とはまろやかに付き合っていく、という従来の田中角栄的なアプローチとは正反対のやり方であり、対中関係がいっそう悪化するのは火を見るより明らかだ。
たしかに今の中国におもねる必要はないと思うが、次期アメリカ大統領のトランプ氏がこれまでの対中政策をひっくり返そうとしている中では、火に油を注ぐ展開にもなりかねない。
※週刊ポスト2017年1月13・20日号