小林:摂政はダメ。天皇が精神や身体に重大な疾患を抱えているなど、何もできない場合の制度なんだから。
八木:私自身、摂政には反対で、「国事行為の臨時代行」が落とし所だと考えている。現状をしのぐには、それが一番簡単な制度変更でしょう。昭和天皇の最晩年は、この制度でしのいだ。
小林:短期間なら「臨時代行」でしのげるだろうけど、皇太子殿下が臨時代行の状態を何十年も続けたら、それこそ権威が二分化するよ。
八木:それは退位でも同じでしょう。
小林:いや、退位して太上天皇になった場合、国事行為はやらないから。
八木:しかし今の天皇が退位した場合、おそらく完全に引退はなさらず、公的行為は続けられると思う。あちこちにお出かけになって国民と接するだろうし、外国訪問もするかもしれません。退位が実現しても、それによる権威の二分化には気をつけなければいけない。
小林:それは今の天皇陛下ご自身が細心の注意を払いますよ。太上天皇になられたら、今の皇后陛下が天皇陛下に頭を下げるのと同じように、新しい天皇陛下に頭を下げて敬意を示すでしょう。権威は断然そちらにあるわけだから、国内外から「来てほしい」という要望も、太上天皇より天皇陛下に集中すると思うね。だからこそ、臨時代行ではダメ。外国訪問でも、臨時代行では相手の王族などと対等のパートナーにならないから失礼になる。
【PROFILE】こばやし・よしのり/1953年生まれ。『おぼっちゃまくん』でギャグ漫画に新風を巻き起こす。現在、本誌にて『大東亜論 自由民権篇』を連載中。今年2月下旬に刊行予定の『天皇論 平成29年』を鋭意執筆中。
【PROFILE】やぎ・ひでつぐ/1962年生まれ。早稲田大学法学部・同大学大学院法学研究科修士課程を経て、同大学大学院政治学研究科博士課程を中退。専門は憲法学。昨年11月、「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」で八木氏にヒアリングが行われた。
※構成/岡田仁志(フリーライター)
※SAPIO2017年2月号