「会社にとっては、産休・育休中の社会保険は免除され、雇用保険料も給料が発生しなければかからないので、負担はありません。それよりも会社が避けたいのが、育休後の職場復帰です。
産休中は健康保険から、育休中は雇用保険から出産前の給料の一部が支給されるので、『育休が終了するまでは、ちゃんと雇用する。その代わりに復職はしないでそのまま一身上の都合で辞めてもらえませんか?』と、労働者が自分の意志で辞めることを促す“復職拒否のための肩たたき”が行われているのです」(稲毛さん)
これこそ不利益取り扱いに該当してもおかしくないが、事実、多くの職場ではこうした「退職勧奨」が水面下で行われている。まだ大企業であれば労働者の人数が多い分、誰かしらが産休・育休の状態にあるので、このようなあきらかな復職拒否は起きにくい。
問題は、産休・育休取得者が数年に一度あるかないかという中小企業だ。
「産休だけでも約3か月間、育休を1歳まで取ると、約1年間の人手不足期間が生じ、ほかのメンバーの頑張りで業務の穴埋めをするには長すぎる期間といえます。そのため、会社は代わりの人材を雇い入れるわけですが、育休を取った人が復職すると、今度は代わりの人材が余剰人員になってしまうのです。
まして、代わりの人が一生懸命働いてくれたりすれば信頼感や情も沸きますし、子供の病気等で遅刻や早退、欠勤が予想される復職者よりも、いま実際に働いている人のほうを雇い続けたいと考えてしまう傾向があります。そのため、中小企業では『自分の代わりの人材を会社が雇う前に復職しないと』と、育休をほとんど取らずに復職するママの姿は珍しくありません」(稲毛さん)
スムーズな復職が叶わない事態が横行する背景には、会社と労働者の妊娠や出産に対するコミュニケーション不足もある。
「いまの時代は会社が“マタハラ恐怖症”に陥って、妊娠や出産の質問をご法度にしているところが多いのですが、マタハラと妊娠・出産に関するコミュニケーションは違います。配属や要員計画などの目的があって妊娠予定の時期を尋ねることはマタハラではありません。
こうした誤解が生じたままでは、いくら育児休業を取りやすくしたり、マタハラ防止措置を強化しても、女性はいつまでたっても安心して子供を産めませんし、誰もが育休・復職のカードを手にできる状況を作るには、妊娠や出産、育児中の働き方に関して、会社や上司と率直に話し合うことが不可欠です」(稲毛さん)
マタハラ防止を叫びすぎて、かえって女性の産休・育休環境が悪化しては本末転倒だろう。