そういう背景を踏まえると、安倍首相がニューヨークのトランプタワーを訪れた際にトランプ氏だけでなくユダヤ教徒の長女イヴァンカ氏とその夫ジャレッド・クシュナー氏が同席していた理由は想像がつく。すでに内外のメディアでも報じられているように、おそらく「ファミリー・ビジネス」のミーティングを行なっていたのだろう。その只中に通訳だけ連れて飛び込んでいった安倍首相は何を言われたか?

 IR整備推進法案を速やかに成立させるよう要請されたに違いない。だから安倍首相は帰国後、いきなり同法案の成立を急がせたのだと思う。

 むろん、この見立てを安倍首相や政府関係者に問い質したとしても、容易に認めるわけがないだろう。あくまでもトランプ氏が大統領に就任する前の極秘の“ディール”だからである。

 トランプ氏との会談後、安倍首相は「内容は明かせないが、信頼できる指導者だと確信した」と述べた。この言葉は裏を返せば「自分は裏切らない。必ずIR整備推進法を成立させる」というトランプ氏へのメッセージと読めなくもない。1月下旬にはホワイトハウスに参上して約束を守ったことを報告するというのだからもはや完全な僕(しもべ)である。

 しかし、そういう姿勢は、前回も述べたように、アメリカべったりの土下座外交、朝貢外交であり、中曽根首相とレーガン大統領の時のような「日米イコールパートナー」とは全く違う。いくら戦後歴代4位の在職日数となり、プーチン大統領との北方領土交渉やオバマ大統領とのハワイ・真珠湾訪問などで「戦後政治の総決算」「私の世代で戦後を終わらせる」と大言壮語しても、中身は相手の言いなりで、日本にとってのメリットが見当たらないのだ。

※週刊ポスト2017年1月27日号

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