そんなことがたび重なるたび、長男は「ママ、おばあちゃんのところに逃げようよ」と泣きながら訴えましたが、私にも母の反対を押し切って結婚した意地がある。おめおめと泣き顔は見せられません。
夫は同居を始めたときから、3人の子供が生まれてもずっと、毎朝、テーブルに千円札2枚、2000円しかくれません。
事務所の仕事は「食べさせてやっているんだから当たり前」で、お給料やお小遣いは一切ありませんでした。
お金に対する不満はいつも持っていました。たまには好きなものを買い、子供たちと外食もしたい。とうとう我慢の限界に達した私は、夫のキャッシュカードから5万円引き出しました。
その足で子供たちと駅前にあるデパートに乗り込んで、欲しいものを買い、食べたいものをたらふく食べたのです。夫が怒り狂い、暴力を振るわれてもかまわない。やるならやれと覚悟の上です。
◆財布から5万円持ち出した私に、警察官がつぶやいた一言で決心
家に戻ると、家の前にパトカーが止まっています。何が起きたかと家に入ると、警察官がいて、私の顔を見るなりです。
夫が「こいつです。こいつが犯人です。お巡りさん、逮捕してください」と、私の腕をつかんで警察官の前に突き出したのです。年配の警察官は「犯人? 奥さんですよね」と私と夫の顔を交互に見て驚いています。
「そうです。でもぼくのカードを黙って盗んだ泥棒ですよ。すぐに逮捕してください」
「妻が旦那さんの財布からキャッシュカードをとっても罪にはなりませんよ。夫婦ですから」と、警察官の説明を聞いている夫の顔を見て、ピンときました。
夫は私を辱はずかしめるために、わざと警察を呼んだのです。帰り際、警察官は私の耳元で囁きました。
「妻を泥棒呼ばわりするなんて、ぼくたちよりも家裁の裁判官が必要なんじゃないですか?」と。
この一言で目が覚めました。過去の意地にしがみついて、不幸の底に沈んでいていいのだろうか。私は身の振り方を、初めて真剣に考えたのです。結婚して12年。10才の長男、7才の長女に加えて、まだ2才の次女もいる。その私に何ができるかと──。〈次回につづく〉
※女性セブン2017年2月9日号