だが、この「国民生活への影響を最小限にする」という政治家的発想が、天皇家の意思との齟齬を生んでいるとする指摘がある。皇室ジャーナリストの山下晋司氏が語る。
「合理的な考えかもしれませんが、元日に即位と改元を行なうというのは、宮中祭儀への配慮がなされていない。元日には天皇陛下が伊勢神宮や四方の神々を拝する重要な宮中祭儀である四方拝が午前5時半から行なわれるため、午前4時半頃からその準備が始まるでしょう。
この四方拝を新天皇が行なうには、午前0時~同4時半頃までの間に皇位継承の儀式『剣璽等承継の儀』を行なう必要があります。その後、午前5時半から四方拝、そして宮中祭祀である歳旦祭、国事行為である新年祝賀の儀に臨まなければなりません。
今上陛下は宮中祭儀をとても大切にされている。慌ただしい皇位継承の雰囲気の中で、宮中祭儀の“心をこめたお務め”ができるかを考えると、元日即位・改元は陛下が納得できる案とは思えません」
宮内庁側は「元日改元」報道に慌てた。宮内庁関係者が明かす。
「杉田官房副長官はじめ、官邸の担当者は宮内庁とすりあわせを行なってきたから、“元日改元は難しい”ことを理解していたはずで、安倍総理や菅長官にもそのことは伝わっていたはず。それなのになぜああした報道が広がったのか、不可解でなりません。
昨年のNHKの『生前退位スクープ』の後、風岡典之・宮内庁長官と、宮家の事務を統括していた西ヶ廣渉・宮務主管が相次いで退任されました。特に西ヶ廣宮務主管は、一部で“NHKに近い”と囁かれ、生前退位のスクープの仕掛け人とも報じられた。
そうした宮内庁幹部の退任により、政治家の“宮中祭祀への理解不足”を改めさせたり、メディアの報道姿勢に目を配ったりする機能が上手く働いていないという見方もある」
官邸と宮内庁、そしてメディアの思惑のすれ違いが混乱を深めてしまったのだろうか。
※週刊ポスト2017年2月10日号