「いまは若者を中心に酒離れが進んだことや、たばこを吸わない人も増えましたが、ゴールデン街の光景は何も変わりません。好きな酒やたばこを嗜みながら、狭い店内で異業種のお客さん同士が顔を突き合わせて、生のコミュニケーションが生まれています。
最近は若いサラリーマンや外国人観光客の姿も目立つようになりましたが、やはりメールやSNSでは味わえないアナログ的な人と人との交流に刺激を受け、新しく常連になるお客さんも増えています」
現状、ゴールデン街では、店内禁煙を掲げる店舗はほぼない。店が極端に狭いため、煙がこもらないよう外に灰皿を設置する店があってもいいようなものの、そうした店も見当たらない。じつは、ゴールデン街では屋内よりも屋外禁煙が徹底されているのだ。
「店先に灰皿を置くと、お客さんでもない人が集まってきて一斉にたばこを吸い始めてしまうでしょうし、火種が大きくなって煙が立ち込めている灰皿に店主が気付かなければ、それこそ火災の危険性も増します。
そのため、ゴールデン街では組合を通じて、たばこは基本店内で吸ってもらい、気分転換などで外に出て吸うお客さんについても、吸い殻は必ず店内で処理するように指導しています」(前出・石川氏)
ゴールデン街は昨年4月、17店舗が燃える火災に見舞われたが、ホームレスの男による放火が原因で、むしろ、火の取り扱いには日頃から細心の注意を払ってきたという。
では、屋内禁煙を原則とする法案が通ったらどうするのか。小池都知事は、1月13日の知事記者会見で、ゴールデン街の文化に理解を示したうえで、〈それぞれ小規模のお店の方々については、その対応策について、東京都として何ができるかは研究をしていきたい〉としていたが、石川氏はただ困惑するばかりだ。
「もちろん、こんな狭い店内に喫煙室を設けることはできませんし、かといって外で吸ってもらうこともできない。ましてやゴールデン街の店をすべて禁煙にするなんて……ちょっと考えられませんね」
新宿ゴールデン街で夜な夜な築かれてきた人間ドラマを語るうえで、どうしても欠かすことのできない酒とたばこ。その歴史ある飲み屋文化も、一律規制で薄らいでしまうのか。