母も驚いたに違いない、数か月の決断だった。私はこの時すでに別の高校には合格していた。だから落ちてもともとという気持ちを自分のお守りに、初の受験に挑んだ。だが通された試験会場はなんと!コドモアテネでゴザを敷いて皆と毎週末ワイワイお弁当を広げていた講堂ではないか。まわりの受験生たちが「ついに宝塚に一歩入った!!」と興奮さめやらぬ中、私は「この辺、いつもお弁当で私が陣取ってるところだ…」と、ズルリズルリと緊張が剥がれおちていく時間だった。慣れた場所での安心感と落ちてもともとの気負いのない心の助けか、気づけば私は一次試験を無事通過していた。

 こうなると遅まきながら「受かりたい!」という気持ちが頭をもたげてまいりました。少々失敗しても、とにかく、“やる気はあります”とばかりに笑った。苦しいときの神頼みも炸裂し、最終面接のとき“神よぉご慈悲を”とばかり歯を剥き出しに、また笑った。今思えば、自分の踏ん張りのきく性格にも気づいた受験だった。

 何にも皆さんには結果勝てていなかったけど、受かりたいという強い思いは誰よりも勝っていたような気がします。

 そして迎えた合格発表──。音楽学校内の敷地で合格番号が掲示されるのですが、見に行くのが怖いわけですよ。少し遠くに“キャーッ!!”と合格者や父母、また、不合格だった人たちの入り交じった声が耳をつき、なおも攻め立てる。逃げたい心に深呼吸を与え、人生初の己の腹をグルグルと括り、私は歩き出した。そのとき…「あら、あなた受かってたわよ」すでに発表を見たコドモアテネの同級生のお母さんのひと言。

 えーーーっ、言っちゃう!? それ? 言っちゃう!? 嬉しいという実感が全く来ない。合格という感動したい心が木っ端微塵に道路に散らばった気がした。

 だから今も思う。毎年、合格発表の瞬間がテレビに映されるたび、あのキャーッ!って天に響くような雄叫びを上げながら合格した己の番号を穴があくほど見たかったと。

 それか、今から高校、大学受験も悪くないか…。とにかく、そんな心残りが今も何気に自分を突き動かす。大人になると、経験したかった思いが大化けして何よりの起爆剤になるのかも。 うん、そうか。これでよかったのかもしれない私の人生。前向きだな、イヤ、マエムキじゃなくてマヤミキである、私は。

撮影■渡辺達生

※女性セブン2017年2月16日号

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