座頭市(海老蔵)に一目惚れした花魁(寺島)は、女郎宿に市を呼び出し、妖艶な仕草で迫る。手を握り、帯をほどき、腰に跨またがって…。アドリブを交えた海老蔵と寺島の息の合った絡みは、聴衆を甘美な世界へと誘う。今回、寺島の挑戦は、海老蔵からのオファーだったという。
「今回の出演は眞秀くんの将来にとって“成人してから歌舞伎の舞台を踏んだことのある母親”として大きなプラスになると考えたようです。それに40年、歌舞伎への憧れを抱えて生きてきたわけですから、何より自分がその舞台に立てるという喜びも大きかったでしょう。寺島さん、本当にイキイキとしてました。
六本木歌舞伎は生前の中村勘三郎さんから『どうせなら地球を投げ飛ばすくらいの荒事をやってみろ』とハッパをかけられた海老蔵さんが、“新しい時代に合った新しい歌舞伎を創る”ことを目指して始めたものです。歌舞伎の名門中の名門、成田屋の大黒柱である海老蔵さんは、歌舞伎界での発言力はずば抜けて強いし、まだ若いので行動力もある。
女性の役者にとって大きな一歩になるかもしれません。海老蔵さんを自分の味方に陥落させてしまうのは、さすが寺島さんです」(前出・歌舞伎関係者)
1滴1滴、ポタリポタリと落ちる水滴が長い年月をかけて、強固な岩盤を穿うがつことがある。今回の寺島の挑戦は、硬い岩盤を穿つ最初の1滴となり得るのかもしれない。海老蔵はこう言う。
《しのぶさんは日本アカデミー賞で最優秀主演女優賞を取ったり、(中略)僕たちには経験できない世界を体験している。だからこそ、あとは歌舞伎しかないというのが、僕の個人的な意見です。》
花魁となった寺島は六本木歌舞伎の舞台でこんなせりふで“見得”を切っている。「この世でいちばん怖いのは、鵺(ぬえ)でもなく、築地のなまずでもなく、女でありんす」──。
※女性セブン2017年2月23日号