菅氏に距離を置く安倍側近からは、「失言など政権の足を引っぱるのは菅さんが入閣を推した大臣たち。安倍総理は改造で菅さんに近い大臣を切り、人事介入させないつもり」という対立を煽るような見方が流され、現在、官房長官が担当している天皇の生前退位の法整備は、「内閣改造でベテランの専任大臣を置いて答弁させることになるだろう」(同前)と“菅外し”を予告する。
菅氏の力の源泉は側近記者を通じた情報収集力と巧みなマスコミ操縦術にあったが、大手メディアの記者も掌を返し始めた。
「いまや菅さんより二階さんの言うことが安倍首相に採用されやすい。そのため、新聞各社はエース級の記者を官邸クラブから自民党担当の平河クラブに戻す流れだ」(政治部記者)というのである。
安倍首相と麻生副総理、二階幹事長による菅氏の“実権剥奪作戦”は確実に効果をあげているように見える。しかし、政治ジャーナリスト・野上忠興氏は「ファイアマン(火消し役)の不在」を指摘する。
「安倍政権が再登板後の数々の閣僚スキャンダルを乗り切ったのは、国会の数の力で押し切った面もあるが、それ以上に政権の危機管理に長けた菅義偉・官房長官の存在が大きい。
菅氏が官邸の中心にどっかと座り、大臣が失言すれば呼びつけて厳重注意し、不祥事が発覚すれば持ち前の情報収集力で更迭すべきか、あくまで守るべきかを的確に判断して安倍首相に報告、うまく火消しをしてきた。ところが、最近は菅氏の影が薄く、政権の危機管理に大きな穴が開いている」
ファイアマンの手足を縛ることで政権の危機管理能力は低下し、首相は閣僚のドミノ辞任という「10年前の悪夢」に悩むという“副作用”も露呈しつつある。
光がなくなれば影も消えるが、「影のない光」も存在しない。政権を守護してきた「影の総理」が消された時、安倍政権に大きな地割れが走る。
※週刊ポスト2017年3月10日号