1月19日に韓国ナンバーワン企業サムスン電子のトップ・李在鎔副会長に対する逮捕令状が棄却された時のことだ。逮捕必至と見られた李氏の令状棄却は、財閥の横暴に怒る人々を動かした。彼らは棄却判決を下した判事に対し、ネット上で流言飛語を展開し、電話で猛抗議するなどした。
韓国のネット世論は左派系に偏る。「崔順実ゲート」に関わり利益を得たと見られる人々は徹底的に攻撃されている。SNSはもちろん、携帯電話のショートメッセージを使った「大量メール攻撃」もお手のものだ。全国会議員の個人携帯電話番号もすべて流出している。
朴氏は次いで、「見切り発車」状態の大統領選挙についてもたたみこむ。
〈大統領になろうとする指導者たちは権力欲に目がくらんでいる。政治家は扇動し、大衆は集団で狂気を発散する〉
押さえておきたいのが、憲法裁判所の判決によって今後が左右される点だ。弾劾「認容」判決の場合は朴大統領は罷免となり60日以内に次期大統領選挙が行われる。現状では3月10日頃に「認容」判決が出るとの見方が支配的だ。となると、5月10日頃が投票日となるため、選挙戦期間は約2か月しかない。このため「待ってられない」とばかりに選挙戦が年明けから本格化しているのだ。
ただ、その有り様がやや短絡的だ。
〈刺激的で煽情的であるほど、大衆の人気は上がっていく。政治家は迎合する〉
左右の政治家ともに憲法裁判所に公然と圧力をかけ、三権分立を揺るがしている。その上、野党候補たちは市民の集まりであるはずの「ろうそくデモ」に便乗することで票を集めようとする一方、与党候補は朴槿恵大統領を支持する団体が主催する「太極旗デモ」の壇上に直接立ち、激しい言葉で参加者を煽る。
筆者も数度取材したが、まさに熱狂の現場である。
【PROFILE】1978年生まれ、群馬県出身の在日コリアン三世。日韓で北朝鮮報道に携わったのち、現在はソウル在住。ニュースサイト「韓国大統領選2017」(http://kankoku2017.jp)の編集長を務める。
※SAPIO2017年4月号