ちなみに米国は、尖閣諸島が日中いずれの国の主権下にあるかについては、態度を明確にしていない。つまり、現時点で尖閣諸島を日本が実効支配しているという事実は認めるが、これら諸島が日本領であるということは認めていない。米国は、中国が尖閣諸島に対する日本の実効支配を武力で覆すことは認めないという立場を明確にしている。
しかし、中国が釣魚諸島(尖閣諸島に対する中国側の呼称)を自国領と主張することに対して、米国は異議を申し立てない。尖閣諸島に関して米国が日本の立場を全面的に支持しているわけではないという現実は、今回の安倍・トランプ会談によっても変化していないのである。
日中関係で、米国の姿勢がトランプ大統領の登場によって日本寄りになったとの見方には根拠がない。外交について定見のないトランプ大統領に過度の信頼を寄せると、日本の国益を毀損するリスクがある。
【プロフィール】さとう・まさる:1960年生まれ。1985年、同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。主な著書に『国家の罠』『自壊する帝国』など。共著に『新・リーダー論』『あぶない一神教』など。SAPIO連載5年分の論考をまとめた『世界観』(小学館新書)が発売中。
※SAPIO2017年4月号