「富士」は、言わずと知れた日本一の山・富士山が由来だ。静岡県・山梨県にそびえる富士山は、古くから日本全体の信仰を集めてきた。それだけに、日本人には少なからず崇高の念が深く刻み込まれているが、北海道や四国・九州の人たちには馴染みが薄い。
一方、桜の花はソメイヨシノがメジャーになりつつあるとはいえ、全国に数多くの品種が分布している。そうした背景もあって、桜は依然として全国で普遍的に高い人気を誇る。
それは、鉄道の愛称にも如実に反映されている。寝台特急「さくら」は2005(平成17)年に、寝台特急「富士」は2009(平成21)年に定期運行を終了したが、「さくら」は2011(平成23)年に九州新幹線の列車愛称として復活を遂げた。
春季の季節運行にも範囲を拡大させれば、「桜(さくら)」という愛称がついた列車は全国各地で運行されている。沿線に桜の名所・飛鳥山を抱える都電荒川線や沿線の荒川土手に約500本の桜が植樹されている秩父鉄道などは「さくら」号の運行に力を入れている。
桜をウリにした列車が多く走る中、関西一円に路線網を有する近畿日本鉄道は1990(平成2)年に定期運行する特急列車に「さくらライナー」の愛称をつけた。近鉄広報部担当者が説明する。
「『さくらライナー』は沿線に桜の名所があるこの理由とともに、”さわやかデザイン”、”くつろぎ車内””らうんど展望”をコンセプトにし、それらの頭文字を取って命名されたといわれています。社内に資料が残っていないので命名に際してどのような議論があったのかは不明ですが、沿線の桜を意識していることは間違いありません。2011(平成23)年に『さくらライナー』はハイグレードな車両にリニューアルしましたが、その際に”桜”のイメージをもっと高めることを意図して車体のラインカラーを緑からピンクに変更しました」