その後も、戴社長は各地の事業所を回っては経営基本方針の徹底、意識改革を求め続けた。
戴社長は翌一七年三月十三日に「社長懇談会」を開く旨を各メディアに伝えた。本社の正面玄関に足を踏み入れると、一階フロアの奥に創業者・早川徳次の銅像と「経営信条」と「経営理念」の二枚のプレートが展示されていた。
社長懇談会は同じフロアの多目的ホールで開催された。しかし始まって少し困惑したのは、社長懇談会と銘打ってあるものの、実態は「戴体制七カ月の中間報告」だったからだ。
副社長兼管理統括本部長の野村勝明氏を始め主要役員・幹部九名が戴社長とともに担当する事業分野の説明に立った。
二〇一六年度連結業績の通期見通しが、営業利益、経常利益、最終利益とも四ケタの赤字を計上した前年同期と比べて大幅に改善していたことが、戴社長を始め説明に立った経営幹部たちを雄弁にし、表情を明るいものにしていた。
文■立石泰則(ノンフィクション作家):たていし・やすのり/1950年、福岡県生まれ。中央大学大学院法学研究科修士課程修了。週刊誌記者等を経て、1988年に独立。1993年に『覇者の誤算―日米コンピュータ戦争の40年』で講談社ノンフィクション賞受賞。2000年に『魔術師 三原脩と西鉄ライオンズ』でミズノスポーツライター賞最優秀賞受賞。『さよなら!僕らのソニー』『パナソニック・ショック』など家電メーカーに関する著書多数。
※週刊ポスト2017年4月7日号