◆またも、あの夫婦
記念館を運営する家族の懸念は、もっともだった、というべきか。銅像は「普通の像」ではない。
製作者は、キム・ウンソン氏とキム・ソギョン氏夫妻。本誌でたびたび報じてきたように、韓国国内だけでなく世界各地で設置の動きが進む慰安婦像の製作者である。
この像が日韓関係の新たな火ダネとなることを窺わせる動きがソウルであった。3月1日、韓国では三・一独立運動の記念日にあたるこの日に、市内のターミナル駅の1つである龍山駅前の広場に徴用工像を設置しようという計画があった。結果、広場を管理する韓国政府から許可が出なかったという。
背景には、昨年末に釜山の日本総領事館前に慰安婦像が設置されて以来、冷えきった日韓関係の悪化を回避しようという韓国政府の判断があったとみられる。
龍山駅前に像を設置しようとしたのは、「強制徴用労働者像建設推進委員会」。その中心をなすのは、民主労総と韓国労総だ。
像はくだんのキム夫妻が製作した。つまり、京都にあるものと同じ団体が同じ像を設置しようとしたのだ。
【PROFILE】竹中明洋●1973年山口県生まれ。北海道大学卒業、東京大学大学院修士課程中退、ロシア・サンクトペテルブルク大学留学。在ウズベキスタン日本大使館専門調査員、NHK記者、衆議院議員秘書、『週刊文春』記者などを経てフリーランスに。近著に『沖縄を売った男』。
※SAPIO2017年5月号