2月初旬、中田氏の九州の酒蔵巡りに同行した。

「この華やかな香りは、あの酵母を使っているからなんですね」

「使っているのは硬水ですね。この酒米だと溶けにくいんじゃないですか?」

 どの酒蔵でも最初は、「あの中田英寿が来た!」とお客様扱いされるが、蔵を見学しながら専門的かつ鋭い指摘や質問を続けているうちに、どんどんプロ同士の日本酒談義が盛り上がっていく。出された酒は残さず飲み、地元の肴とともに楽しむ。そして「美味しい」と思ったとき、最後に声をかける。

「今度、日本酒のイベントをやるんです。ぜひ参加していただけませんか?」

 中田氏は、昨年から、日本全国の銘酒が一同に揃うイベント『クラフト サケ ウィーク』(東京・六本木)を開催している。日本酒への愛情を肌で感じた蔵人たちは、皆喜んでイベントへの参加を約束する。古伊万里酒造の前田悟専務も中田氏の情熱にほだされたひとりだ。

「酒蔵にいらした時は驚きましたが、中田さんに声をかけてもらったのは本当に光栄です。これまで業界内でがんばってきたつもりでしたが、販路の開拓などでどうしても限界を感じていました。中田さんのように世界を知る人に日本酒業界を引っ張っていってもらえるなら、協力は惜しみなくさせてもらうつもりです」(前田専務)

 こうして全国の148蔵が『クラフト サケ ウィーク』に集結するのだ。

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