ただし、なかなか勝てないジョッキーのメンタルに「勝ち焦り」が出ることはあるようです。本来なら40メートル先を見ていなければいけないのに、20メートル先しか見えない。勝ちたいという気持ちが強いあまりに、どうしても追い出しが早くなり、狭いところを抜けようとする。外から見ていれば「あと少し(ほんの少しです)我慢していれば、前が空くのに」というケースもあります。
そういったメンタルは、一つ勝つことで解消します。
では、勝ち鞍を重ねている「乗れているジョッキー」はどうか。馬券検討としては「買い」でしょう。感性が研ぎ澄まされている最高の状態にあるはず。「ここが勝負どころだ!」というポイントでは、無意識に体が動いている。つまり勝てば勝つほどいいわけですが、そのためには多く騎乗しなければいけません。
乗り鞍の少ないジョッキーは、ここがたいへんなところかもしれません。騎乗間隔が空くと、どうしてもネガティブな気持ちを引きずってしまう。ジョッキー独特の強力なメンタルを獲得するまでが一苦労です。
そのメンタルは誰に教わるわけでもない。数多くのレースを経験することで、自分で獲得する感性なのだと思います。
●すみい・かつひこ/1964年石川県生まれ。2000年に調教師免許取得、2001年に開業。以後15年で中央GI勝利数23は歴代3位、現役では2位(4月2日終了現在)。ヴィクトワールピサでドバイワールドカップ、シーザリオでアメリカンオークスを勝つなど海外でも活躍。引退馬のセカンドキャリア支援、障害者乗馬などにも尽力している。引退した管理馬はほかにカネヒキリ、ウオッカ、エピファネイアなど。『競馬感性の法則』(小学館新書)が好評発売中。
※週刊ポスト2017年4月14日号