ひとくちにお墓と言っても、その内実はさまざまだ。私たちが当たり前のようにイメージしていた外墓に代わって、今、急速に増えている「室内墓」。その中には、参拝ブースに保管庫から骨壷が自動搬送される「動くお墓」と「動かないお墓」がある。ノンフィクションライターの井上理津子さんが、とある「動かない室内墓」をレポートする。
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東京都新宿区早稲田に、家族用で48万円と、めっぽう安い「動かないお墓」を見つけた。安価すぎて、怪しくはないか。ひねくれた見方をして、行ってみた。
やはり近年、改築したであろう4階建て。浄土真宗の龍善寺というお寺だ。
「東京には、江戸のまちづくりに伴って創建されたお寺が多いんですね。うちもそうで、江戸時代の初め、1638年の創建です」
14世住職という平松浄心さん(58才)が迎えてくれた。戦後すぐの建造だった木造の本堂が、地層の関係で傾いてきて、そのままでは危険となって、2006年に建て替えた。その際に、独自の発想で、まず永代供養墓を、続いて堂内納骨堂を設けたのだそうだ。順序立って、説明をお願いする。
「近隣にワンルームマンションが多いんですね。住んでいる単身の人たちの多くは、後継ぎがいない。永代供養墓の需要は多いだろうと考えたのです」
家単位、あるいは個人単位のお墓ではなく、後継者がいない人たちの遺骨を合葬するのが永代供養墓。最近多くのお寺に設けられているが、そのパイオニアなのである。「分骨3万円、一般合葬型28万円」などに設定し、ホームページに載せると、近隣ばかりか北海道など遠方からも問い合わせがひっきりなしに入り、驚いたという。
「実は、私は寺を継ぐ前、40才まで銀行員だったので、寺を普通の人たちの目線で見ることができます。私自身がこういうのがあったらいいなという形を実現しました」と平松住職。
自動搬送式の業者から営業が相次いだが、目もくれなかったのは、経営面での疑心と共に、「なぜ、お参りのたびに遺骨を運んでくる必要があるのか」という疑問。もっといえば、「遺骨に向かって手を合わせても意味がない」との思いだという。
「お墓は、亡くなったかたのためのものではなく、お参りに来るかたのものなのです。亡くなったかたから『いのち』の意味を教えてもらう場だと思うんです。ひいては限りある『いのち』を、どうしたら精一杯生きることができるかと考える場。ですから、室内のメリットを生かして、そういうことが最大にできるお墓をつくったわけです」
「魂いのちの故ふる郷さと 早稲田墓陵」と名づけられた納骨堂が地下にあった。地下といっても、薄いベージュの広々としたフロアがあり、ずいぶん明るい。
自動搬送式の参拝ブースに似た、しかし私がこれまでに取材したどのブースよりも広い個室の参拝室が8室、並んでいた。アナログ方式だ。受付で、係の人に故人の名前を伝えると、案内される。