◆特殊部隊の捜索

 特殊部隊員が内陸部に侵入した場合、陸自は6000人で対応するとしている。その内訳は、上陸地点を囲む第一次包囲環(網)に3000人。第一次包囲網の内側に普通科、戦車部隊など約1000人が二次包囲網を形成して追い詰める。このほか、包囲する部隊の戦闘を後方で支援する施設、対空防護部隊などに2000人を配備するというものである。

 本稿では防衛庁が想定している「十数人」というのを12人と仮定して計算する。偵察総局の特殊部隊員の最小行動単位は3人といわれているため、上陸した兵員が12人の場合、4組のグループに分かれる可能性が高い。このため、4組が侵入したとするとして計算すると、捜索に2万4000人(6000人×4組)が必要となる。

 さらに、この包囲網とは別に、特殊部隊の上陸に備え、北海道~九州の沿岸を10キロごとに区割りし、計90か所に移動式レーダーを備えた部隊1万5000人を配備するとしている。

 また、防衛出動などが発令された場合、政府機関、原発、石油貯蔵所、浄水場、在日米軍基地、航空管制施設、通信施設の7種類、計135か所が攻撃目標になると想定されているため、計11万9000人が警護に投入される。

 これらの施設の警護には警察も投入されるだろう。しかし、警察官は全国で約22万人いるが、機動隊員はこのうち1万4500人にすぎない。

 陸自の2016年現在の現員(実際の人数)は13万8610人。このほか、即応予備自衛官8175人、予備自衛官4万6000人、予備自衛官補4600人である。防衛出動が発令された場合は予備自衛官等も動員されるため、陸自の隊員は19万7385人となる。

 要するに、特殊部隊員の上陸を阻止したり、上陸した特殊部隊員を捜索する人員だけで計15万8000人が必要となる。このため、特殊部隊対策以外の任務に投入可能な人数は3万9385人となる。

 しかし、24時間体制で「有事」が終わるまで交代なしというわけにはいかないだろうから、この3万9385人は交代要員となる可能性が高い。このため、全ての人員が特殊部隊対策に投入されることになる。

 これはあくまでも12人が侵入した場合の数字である。北朝鮮軍には特殊部隊員が約12万2000人いると言われているが、前述したように、防衛庁は数百人、陸上幕僚監部は800~2500人を想定している。仮に、陸上幕僚監部の最大の見積り(2500人)で計算すると、約830組(2500人÷3人)という途方もない数になる。

◆帳尻合わせの机上の空論

 防衛庁の想定では、海自が80パーセントを「撃退」するとしているが、日本へ接近する北朝鮮海軍の艦艇の数がわからないうえ、漁船で上陸を図るだろうから、「80パーセント」とする根拠となる数字が分からない。

 また、「撃退」の方法も分からない。「撃沈」するのは簡単だが「撃退」するのは相当難しい。体当たりして妨害するのだろうか。

 それに、漁船をいきなり撃沈するわけにはいかないだろうから、停船させて「護衛艦付き立入検査隊」が船内を調べることになる。しかし、もしこの漁船に特殊部隊員が乗り組んでいたら、海自は死傷者の発生を覚悟しなければならない。

 陸自も沿岸部で残る勢力の4分の3を「撃退」するとしているが、海自と同様にその手段がわからない。海岸から威嚇射撃しても一時的に沖合に逃げるだけだろう。

 それに、「撃退」したからといって、素直に北朝鮮へ戻るという保証はない。燃料が続く限り、何度でも上陸を試みるだろう。自衛隊に妨害されたからといって、おめおめと北朝鮮へ戻ったら、どんな処罰が待っているかわからない。

 防衛庁が参考にしたという韓国での上陸事件「江陵潜水艦座礁事件」では、座礁した潜水艦の乗組員および工作員計26人に対し、韓国陸軍は東京都の3倍の面積を約50日間にわたり1日最大6万人を投入して掃討作戦を実施した(実際には、潜水艦乗組員は上陸直後に集団自殺したため、捜索対象は工作員3~4人。最終的に1人を発見できないまま捜索終了)。

 東京都の3倍の面積を捜索した理由は、偵察局所属の工作員が山岳地帯を一日で移動できる距離を考慮した結果である。

 このような大規模な捜索が行われた「江陵潜水艦座礁事件」の、どの部分を参考にしたら6000人という数字になるのか、その根拠が全く分からない。韓国と同様に6万人というのなら理解できるのだが。

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