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【書評】起承転結をすり抜けて抽出された「怪」のエッセンス

【書評】『かわうそ堀怪談見習い』/柴崎友香・著/角川書店/1500円+税

【評者】鴻巣友季子(翻訳家)

 あの柴崎友香が怪談話を書いたと聞いて、一瞬、耳を疑い、すぐに購入した。なにしろ、柴崎友香といえば、芥川賞受賞作の『春の庭』など、「ストーリーらしいストーリーのない」「日々のひとこまを截りとった」作風で知られている。

 一方、古風な名称の「怪談」といえば、明確な起承転結があり、だんだん恐怖を盛り上げていって、オチがつく、というのがスタンダードな構成のはずだ。柴崎友香的なものの対極にあるのではないか。

 本作の主人公は女性小説家。デビュー作の恋愛小説が当たったために、その後も傾向の似た作品を書き、恋の悩み相談などに登場していると、「恋愛小説家」のレッテルを貼られることになった。それに嫌気がさし、怪談ものを書いてやろうと思い立つが、怪談作家修業をするうちに、うっすらと奇妙なことが起こりだす。

 誰だかわからない「鈴木さん」という人が自分の周りをちらちらする。怪談本を何度読んでもあるページの手前までくると、本が失くなってしまう。地面の上に、蛙の喉のような白くて丸い不思議な生き物を見る。暗闇で見つめてくる蜘蛛の光る目。ちっとも進まない人。やけに古臭い服装で写真に写っている女性……。

 主人公は霊感が強いという友だちに怖い実話を聞いて取材することもあり、その奇譚もときどき入れ子状に展開する。

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