◆PTAを巡る裁判
原則として、PTA側は保護者に「活動への参加をお願い」をするしかありません。私も、PTA活動を拒否する保護者の説得に当たっていますが、「PTAに入会を強制された」などと言われぬよう細心の注意を払っています。何しろ、電話連絡や手紙を送っただけで「脅された」と騒ぎ立て、学校や教育委員会にねじ込んでくる保護者がいるからです。
PTAの入退会を巡り訴訟に発展したケースもあります。その一つが、全国紙でも報じられ話題となった「熊本PTA裁判」。熊本市内の保護者が市立小学校のPTAを相手取り2014年に起こした裁判です。
保護者は「PTAに強制入会させられたうえ、退会届が受理されなかった」ことを問題視。PTAに会費の返還と損害賠償を求めていました。一審の熊本地裁は原告の訴えを棄却しましたが、今年2月の控訴審で両者の和解が成立。和解条項として、「PTAが任意団体であり、入退会が自由であることを保護者に十分周知する」ことなどが盛り込まれたのです。
この裁判をきっかけに、全国の小中学校PTAでは、入退会規則を保護者に明示する動きが広がりました。組織として当然と言えば当然のことだと思います。
しかし、現在係争中のもう一つのPTA絡みの訴訟には違和感を覚えずにいられません。
訴えを起こしているのは、長女を私立の中高一貫校に通わせている大阪府の男性。「保護者会を退会したため、長女が中学の卒業式で一人だけコサージュをもらえなかった」と、学校事務局長と保護者会に損害賠償を求めているのです。
◆シュークリームがもらえない
コサージュは保護者会費で購入されたものでした。男性は、実費負担を申し出たものの保護者会に拒否され、自前でコサージュを用意したといいます。
また、毎日新聞(電子版/2016年5月20日)によると、この女子生徒は保護者会が用意する中学校の特別給食や、マラソン大会で配られたシュークリームも受け取れなかったのだとか。子供の気持ちを考えると切なくなります。
しかし、保護者会はあくまでも“任意団体”なのですから、「非会員に特別な計らいをする義務はない」という言い分も成り立つのではないでしょうか。
たとえば、町内の少年野球チームに対し「活動にはいっさい協力しないが、金を払うから子供を試合に出せ」と言ったらどうなるのか。「子供が可哀想だから出場を認めます」とはならないはずです。
PTAが携わる行事は多岐に亘ります。文化祭やお楽しみ会、夏休みのサマースクール、交通安全教室などなど、保護者から集めたPTA会費で運営されるイベントはたくさんあります。前述の「コサージュ」のように、卒業式や周年行事で児童に配布する記念品の費用は、原則、すべてPTA会費から捻出されているのです。
私が知る小学校PTA会長が、PTA活動の参加と会費の支払い拒否を宣言した保護者に「児童がいっさいのPTA主催行事に参加できなくなり、PTA会費で購入した各種記念品を受け取れなくなる」ことを伝えたところ、「PTAが子供を差別するのか!」と怒鳴り散らされたそうです。「タダ飯を食うのは当たり前」というこの感覚。とても理解できません。