◆風評被害で企業存亡の危機
さかのぼれば五千年前、エジプトのミイラ保存のため使用されたという木タール(木クレオソートの原料)。19世紀にはドイツで火傷や湿疹、化膿傷の治療薬として活用され、長崎の出島から日本へと入り、軍医・森林太郎(森鴎外)が使い始めてすでに100年以上が経っている。
戦後はTVがまだ無い時代に「ラッパのメロディー」、今でいうサウンドロゴを使ってラジオCMを流すなど、ブランド戦略を展開し正露丸は国民的な常備薬に定着した。その有効性は、「経験」を通して認められてきた。しかし、効果についての科学的な解明はどうだったのか?
「実は1980年代までは伝統薬として基準内で製造すればよく、効能についての科学的実証は必要なかったのです」
しかし、逆風が吹き始めた。1990年代、「正露丸に発がん性があるのではないか」という誤解が広がり、売り上げに影響を落とすように。
「実はクレオソートには木と石炭、2種類がありまして両者は別もの。しかし、コールタールを蒸留した石炭クレオソートと、正露丸の木クレオソートとが混同されて伝わってしまったのです」
科学的なエビデンスを提示しなければ企業の存続すら脅かしかねない危機だった。