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ネットの反差別運動の歴史とその実態【4/4】

ネットニュース編集者の中川淳一郎氏

 ネットニュース編集者・中川淳一郎氏による「ネットの反差別運動の歴史とその実態」レポート(全4回中最終回・文中一部敬称略)。

 * * *
 さて、2016年1月10日、突如として反差別界隈で注目を集める人物が登場した。精神科医・香山リカである。銀座で行われた「慰安婦問題 日韓合意を糾弾する国民大行進」でデモ隊に中指を突き立て、差別主義者に「やめろー!」と絶叫する様が動画で公開されたのだ。『スッキリ!!』(日本テレビ系)のコメンテーターとして冷静なコメントをし、著書も多数出していた香山のこの姿には多くの人が仰天した。以後、香山は野間と共に反差別界隈の主役級の注目を集めるようになる。もはや彼女のツイートだけで2ちゃんねるにスレッドが立つ時代なのだ。かつては李信恵のツイートがスレ立ての材料となっていたが、今の時代は香山である。

 今やドップリと反差別界隈に身を投じている香山だが、多くの人はその豹変ぶりに驚いている。思った以上に過激なのだ。雑誌や新聞の連載は以前通りの筆致なのだが、ツイッターになると同一人物とは思えないほど過激になる。1月10日、香山は本気で差別主義者に対して怒っていた。その前段となったかもしれないのが、2015年12月23日に行われた反天皇制を掲げる団体に対する「行動する保守」の日侵会による原宿カウンター街宣である。天皇誕生日に合わせて行われた反天連の集会に抗議すべく、集まった人々の前に突然香山が現れたのだ。

 なお、2015年4月、香山は自身が出演するDHCテレビ『虎ノ門ニュース8時入り!』の別曜日コメンテーターである保守派・青山繁晴のファンのことを「信者」呼ばわりし、翌週の番組で謝罪。その後、青山を貶めるようなツイートを連投した。だが、「ツイッターを乗っ取られた」と主張し、この連投は自分がしたものではないとし、一時ツイッターにカギをかけていた。

 この騒動で、ネトウヨの間にも香山への注目度が高まる結果となった。そして12月23日、反天皇の集会が行われた東京・原宿のビルの前には桜井誠もいた。この様子をたまたまその場に居合わせた香山が撮影し始めたのだ。

 カウンターの参加者は「香山せんせー!」「ツイッター乗っ取られたの?」「香山先生、今日はお化粧してるの?」「タカラトミーから許可もらった?」などと挑発を開始。桜井は香山に近づき、「もうちょっと笑わないと。あなたせっかく美人なんだから。広角あげてニコッと笑わなくちゃ。おばちゃん、話していこうよ」などと話しかけた。香山はこわばった表情を浮かべる。日侵会に対抗するために来たのではなく、自宅が近くということでたまたま居合わせただけだったのだが、結果的に「写真撮るの趣味なの?」「リカちゃんまたね、ばいばーい!」「リカちゃん人形に謝れー!」などと挑発を受け、横断歩道を渡って自宅方面に歩いて行った。そうしたことがあってから17日後の香山の「中指銀座デビュー」である。

 2016年は、前出の「リンチ事件」をめぐり反差別界隈が慌ただしくなっていった。リンチ事件が明らかになってから、彼らを反社会的勢力だと指摘する声が出てきたのだ。鹿砦社は同年、反差別界隈に関し2冊の本を出した(3冊目は2017年5月)。2ちゃんねるのしばき隊ヲチスレも多数の書き込みがされていた。そんな状況下、韓国は朴槿恵の支持率が低下し、もはや反日どころではなくなってきた。ネトウヨの勢いも落ち、週末のデモの回数も激減していく。彼らは、今度は「沖縄差別」に取り組むようになる。沖縄に米軍基地を押し付ける本土が沖縄を差別しているというロジックである。高江や辺野古で基地建設反対運動を行うようになったのだが、ここには辛淑玉が共同代表を務める「のりこえねっと」も関与している。沖縄を巡っては大阪府警の機動隊員による「土人」発言がクローズアップされ、「沖縄ヘイト」という言葉も生まれた。

 沖縄には男組・高橋直輝も訪れていたが、10月4日に沖縄防衛局職員に暴行してけがを負わせたとして、傷害の疑いで逮捕され、その後公務執行妨害でも起訴された。釈放されたのは半年以上先となる4月21日のことである。異例の長さであると高橋の早期保釈を求める運動も発生しており、保釈された際には支援者から花束も送られ、その後新聞のインタビューも受け、拘置所生活について語った。その約1か月前の3月17日、高橋の後に逮捕された沖縄平和運動センター・山城博治議長ともう一人の公判も行われたが、鹿砦社の『人権と暴力の深層』には野間、安田、香山らも那覇地裁に訪れていた様子が写真とともに紹介されている。

 2016年から2017年にかけては、反政権の運動が盛り上がった感がある。「反政権」の面で大きかったのが東京都知事選挙である。舛添要一の辞任に伴う都知事選では、いずれも無所属の小池百合子、増田寛也、鳥越俊太郎の3人が有力候補とされた。小池は自民党に反旗を翻す形の出馬で増田は自民党の推薦を受け、鳥越は民進党・共産党・社民党・生活の党の推薦を受けた。となれば、反差別界隈は鳥越の応援にまわる。鳥越こそが東京をより良い方向に導き、そしてひいては安倍内閣打倒につながる、といった解釈をしたのである。事実、鳥越は東京都知事選であるにもかかわらず、なぜか安倍内閣打倒を選挙戦で訴えた。

 反差別界隈の「いつもの面々」は鳥越支持を明確にし、ツイッターで積極的に鳥越のことをホメ続けた。途中、過去の女性スキャンダルが週刊文春により報じられた際も、徹底的に擁護した。その時のロジックは「合意の上でのことだ」「かつて週刊新潮が報じようとしたが、最後に取りやめた。裏付けが足りなかった」「この時期に出すとは悪質な選挙妨害である」といったものだ。選挙期間中、鳥越の評価を一気に下げたのが巣鴨での演説である。30秒ほど喋ったところで突如として約40年の知り合いだという演歌歌手の森進一にマイクを渡したのである。森は2分ほど鳥越を推薦する演説をしたのだが、なんとこれで終了。次の演説の時間が迫っていたのだという。約2分40秒で終了し、次の場所に向かっていったのだ。当然参加者からは不満の声が出たのだが、鳥越を支持していた元SEALDsのヤベシンタは「巣鴨地蔵商店街を練り歩きしていた東京都知事候補鳥越俊太郎さんと歌手の森進一さん。かっこいい。商店街は歓声が響いていた。これからの選挙戦どんどん盛り上がる予感!」とツイートした。

 これが演説の前に書いたのか後に書いたのかは分からないが、後に書いたのであれば、もはや贔屓の引き倒しどころのレベルではない。わざわざ暑い中、鳥越の話を聞きに来た人々(高齢者中心)に実に失礼なことをしたにもかかわらず、「鳥越だから」ということで絶賛しているのである。これは当時の反差別界隈に蔓延した空気であり、ツイッターで鳥越批判をすると彼らから叩かれる状況にあった。

 さらなる騒動も勃発。元々野党系の候補者には宇都宮健児の名前も取り沙汰されていた。宇都宮は2014年の都知事選で舛添要一に次ぐ2位の得票数を獲得した。結果的に野党四党は鳥越の推薦を決定。これを受けてリベラル陣営の票が分裂することを避ける意味もあり、宇都宮は立候補を取りやめることにした。選挙戦終盤、鳥越陣営は宇都宮に応援演説を依頼する。だが、女性スキャンダルの疑惑があったため、人権派弁護士としては受けられない旨を鳥越陣営に伝えた。すると、宇都宮に対しては電話やFAXで批判が殺到。反差別界隈の一人は「何が日本のバーニー・サンダースだ!」的にツイッターで激怒していた。というか、それはあなたが勝手に押し付けた理想像でしょ、ということだ。この段階で「ウツケン終わったな」という声も出るようになる。「我々が応援する素晴らしき候補者・鳥越俊太郎を応援しないお前はもはや敵だ!」というロジックだ。週刊女性の取材に対し、鳥越は後に「選挙が終わったら“あ、終わった”と普通の生活に戻っていますよ。実は本気で勝てるとは思ってなかった」と発言。これでは支援者も宇都宮氏も報われないではないか。

 この頃は参議院選挙もあったが、ある週末の夕方、私は新宿で対談の収録があったため東口のキリンシティへ行ったのだが、終了後、外に出ると民進党の比例代表候補・有田芳生が演説をしていた。それほど聴衆もいなかったため、枯れ木も山の賑わい、とばかりに私も有田の演説を聞くことにした。すると、私の右斜め後ろにカメラの三脚が見えた。撮影の邪魔になるかと思い少し左にずれ、三脚の方を見たらそこで三脚にスマホをセットしていたのは野間だった。有田の演説を動画撮影(ないしは生中継)しようとしていたのだ。当然野間とはツイッター上では数年間にわたって悪い関係にあったものの、実際に会ったら挨拶ぐらいはする。

「あぁ、野間さん、こんにちは」

 こう言うと野間は一切目を合わすこともなく、ほんの数センチだけ頭が下に降りた。完全無視というわけではなく、数センチの頭の動きを挨拶と捉えることにした。「相変わらずこいつは社会性がねぇな」と思いながら、とにかく聴衆の少ない有田の演説は最後まで聞くことにした。この時の有田の選挙スタッフにはTODAという反差別界隈の若者もいた。彼は私のことが嫌いで時々「中川淳一郎は…」とフルネームを使って悪口をツイッターに書き込む。彼は東京新聞の読者なようだが、差別問題等も扱うことの多い「特報面」で私が「週刊 ネットで何が…」の連載をしていることにおかんむりのようだ。

 時々「東京新聞さんは中川淳一郎なんか切ってほしい」といったツイッターの書き込みをする。余計なお世話だ。営業妨害やめろ、シッシッ。要するに、差別と闘う数少ない新聞である東京新聞がレイシストである中川淳一郎に連載コラムを持たせていることがおかしい、と言っているのである。これも「何を言うか」よりも「誰が言うか」を重視している反差別界隈の硬直した考え方の表れだ。言っておくが、2012年5月の連載開始から5年以上、私は特報面で差別的なことを書いたことはない。むしろ政権や自民党、ネトウヨ批判をしているのである。

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