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【書評】野蛮な官能と恍惚が渾然一体となった「愛の世界」

【書評】『カストロの尻』/金井美恵子・著/新潮社/2000円+税

【評者】嵐山光三郎(作家)

 鮮やかなルージュの地に金色の活字で『カストロの尻』と刻印された謎めいたメロドラマ。二つのエッセイのあいだに短編小説が挟みこまれ、そのうちの六篇は一九五〇年代の岡上淑子のフォト・コラージュに揺曳されている。コラージュの小説化で、雑誌の写真を切り貼りしたコラージュ技法はブラックやピカソが創始した。

「読みはじめたらやめられない物語」や「小説を書いた者でなくてはわからない小説」などは「私には関係ありません」と言ってはばからない金井美恵子である。棘のある言葉と幻想的イメージと、饒舌なる文体で構築していく。金井メロディともいうべき長い長い運河が細部の支流に入りこみ、コラージュ化されていく。

 第一エッセイ「破船」は句点が三つしかない。「私」はダンス・ホールの換気口からもれてくる“ブルー・ムーン”のメロディを聞きながら、女の子と一緒に見る約束をした映画館へ入り、スクリーンの光と映像機から発する光線のうすぼんやりしたなかで女の子と目をあわせ、「ゴワゴワした紺のサージのひだスカートの脇のスナップを指で外してそっと手を差し込み、つるりとした丸いお尻の湾曲にてのひらをすべらせる」。

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