客家の血について、余貴美子の言葉は明瞭だ。「日本や台湾、中国というより、私は客家。そんな風に思っています」
だが、日本で生まれ育った余貴美子が、客家意識を深く持ち始めたのは、この10年ほどのことだという。「おくりびと」「ディア・ドクター」「あなたへ」で日本アカデミー賞最優秀助演女優賞に3度も輝いた女優の内心世界に、何が起きたのだろうか。
客家という人々を知るうえで、重要な「硬頸(インゲン)」という中国語がある。普段の台湾社会ではあまり頻繁には使われない。意味は、読んで字のごとく「硬い頸(首)」。そこから「首を縦に振らない」「こうべを垂れない」という風に解釈され、「頑固」という意味に転じた。
多くの台湾人は「融通が利かない」というマイナスの意味で受け止めるのだが、客家人は褒め言葉で使っている点が面白い。筆者なりに解釈すれば「なにがあっても折れない客家の強い心」を象徴する二文字である。
◆大陸から逃げた集団記憶
演出家・串田和美が主宰した「自由劇場」などの舞台演劇で育ち、映画やドラマに進出した余貴美子の演技には、何か太い芯のようなものが入っている。昨年大ヒットした「シン・ゴジラ」では防衛大臣を演じた。
「総理、撃ちますか、いいですか、総理!」と、鋭い眼光で問い詰める迫力。戦闘準備を進める自衛隊に「頼んだわよー」と呪文のように念じ、攻撃が失敗すると「うーん、総理、残念ですが、これまでです!」とスパッと言い切る潔さ。
怪獣が主役の作品で、短いセリフしかなかったにもかかわらず、怪獣並の迫力が頼りない男性陣のなかで異様に際立った。ほかのどの映画でも、役柄は違いこそすれ、画面の中の存在感がやけに濃いのだ。だから脇役でも光る。