それは「硬頸」を旨とする客家の血のなせる業なのかもしれない。
同じ客家で余貴美子の友人でもあり、宝塚歌劇団出身で、独創的な演出家として活躍する謝珠栄(しゃたまえ)は、その演技をこう評する。
「知り合う前から好きな女優さんでした。舞台の上で、とてもチャーミングで声がすごくよく通る。立派な華を持っているのに、それをあえてひけらかさず、自然体で佇んでいる。日本の女優さんにはあまり見かけない魅力がある」
余貴美子も普段は穏やかな性格で人当たりは丁寧、物腰は柔らかい。東京の事務所や横浜の自宅で行ったインタビューでは玄関を出て外まで迎えに出てきてくれた。一流と呼ばれる芸能人ではあまり見ない対応だ。
そんな普段の姿から、いざ「仕事」という勝負の場になると途端に「硬頸の人」に豹変する。
世界の政界で活躍した人物も、客家の血を引く者は枚挙にいとまがない。中国のトウ小平、シンガポールのリー・クワンユー、台湾の李登輝らがその代表格(*注3)だ。
【*注3/トウ小平は3度の失脚から蘇って改革開放という大仕事を成し遂げ、リー・クワンユーは豆粒ほどの国土しかないシンガポールをアジア最高の経済都市に半世紀をかけて作り上げた。李登輝は、大陸出身者ばかりの国民党でひたすら自重して時を待ち、ショウ経国の死後、総統の座に着くと、一気に台湾へ民主化をもたらした】