たとえば、HISはインドネシアだけで現地に500人ものスタッフがいるというが、それはインドネシアを訪れた日本人旅行客のランオペのためである。そのうちの100人でもインドネシア人の訪日旅行のオリジネーションに振り向ければよいのに、縦割り組織だからそれができないのだろう。
その一方で、中国やASEANなどから訪日客を最も集めているのは、フリープラス(須田健太郎社長)というベンチャー企業だ。同社は今でこそ正社員が100人を超えているが、20人くらいの時点ですでにインバウンドのオリジネーションではトップに立っていた。アウトバウンド志向の強かった大企業がベンチャー企業に手も足も出ないというのは、実にもったいない話である。
実は、日本の旅行代理店の多くは、新聞広告や紙のパンフレットなどの広告宣伝費が売上高の4割を占めるという古い手法のままであり、ネット時代に完全に乗り遅れている。かつて私は某大手旅行代理店に全社一括の顧客データベースを作り、ネットを使ったツアー案内や旅行中の留守家族向けサービスなどを展開することを提案したが、全く理解されなかった。その会社は未だに支店ごとに顧客データを抱え込み、コストの高い紙パンフを送り続けて業績が低迷している。
そういう業界事情を尻目に、訪日外国人客の急増を受けて改正通訳案内士法が成立し、通訳案内士の資格がなくても外国人旅行者に対する有償の通訳ガイドができるようになった。今後、訪日外国人客はますます日本の旅行代理店をスルーするようになるだろう。
すでに中国人の場合は、インバウンド客を相手にしたランオペが“無法状態”で、留学生らがバンやミニバンなどで訪日観光客を有償で案内している。見方によっては違法な“白タク行為”だが、その料金はガイド料も含めたパッケージになっているし、「友人を乗せているだけ」と言われたら取り締まることも難しい。