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2017.08.04 07:00  週刊ポスト

【著者に訊け】中澤日菜子氏 『ニュータウンクロニクル』

◆ニュータウンは一本の木のよう

 さて1991年に〈プールバーY〉に鞍替えした八百善は人気ドラマ〈『銀曜日は妻たちと』〉のロケにも使われ、9.11後の2001年には市の起業支援制度に応募した若手染織家〈海蔵寺梓〉の工房に姿を変えていた。

 その間、八百屋を畳み、財テクに精を出した善行は、ロケで出会った役者の卵と駆け落ちした妻に2000万円近くを持ち逃げされ、バブル後は酒に溺れる日々。そんな両親を恨み、10年を無為に過ごした〈浩一〉は、同世代の梓がわざわざ手間のかかる草木染めを選んだ理由に、衝撃を受けてもいた。

〈あると思い込んでいたものがじつはなかったとか、信じてたことがあっけなく崩れるとか。そういう体験を重ねていくうちに……じぶんの手で作りたくなったんだよね、なにかひとつでも『確かなもの』を〉

「当時は永山にもプールバーが本当にあって、金妻で不倫が流行ったり、浮ついた時代でしたよね。一方で梓が確かさを求めたり、二章の主人公が友達とずっと親友でいようと約束した気持ちも全部本物なんです。人間関係に絶対はないとしても、その一瞬があったからこそ何かを信じて〈新しい布〉を織る人を、私は大事に書きたかった」

 娘家族との同居を拒み、団地に住み続ける春子にしても、単に過去にしがみついているわけではなかった。彼女は彼女なりにこの町の未来を考え、実はある取り組みを始めていたのだ。

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