「例えば各部隊の陣中日誌や戦闘詳報は、記録や保管の仕方に問題がありました。当時、記録係は兵士の持ち回りで、上層部には要約した情報を伝え、不要になった原本の扱いは各部隊に任されたのです。その場で廃棄されたり、将兵の私物となって『戦場土産』として郷里に送られたものもある。今になって各地方で発見される断片的な陣中日誌などは、そうした経緯で兵士の実家に保管されていたものが多い」(加藤氏)
私が入手したアルバムがフリーマーケットに出されていたことから推測すると、こうした貴重な写真資料が日本中に散逸したままの可能性が高い。世界中で戦争の増加、テロの脅威が身近になり、憲法改正が議論される今こそ、我々は古今の戦争を知る必要に迫られている。
戦争体験者が減少の一途をたどり、生の声を聞く機会がなくなりつつある今、埋もれている写真を発掘し現存する資料を検証することが、タブー視されがちな日中戦争を知る、残された方法ではないだろうか。
●よこた・とおる/1971年茨城県生まれ。1997年のカンボジア内戦からカメラマンとして活動開始。アフガニスタン、イラク、シリアなど世界の紛争地を取材。著書に『戦場中毒』(文藝春秋刊)がある。
※SAPIO2017年9月号