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2017.08.12 16:00  マネーポストWEB

若者がタクシーに乗るのは贅沢なのか? 50代男性が抱く複雑な劣等感

若者がタクシーに乗るのは贅沢なのか?(写真はイメージ)


「近頃の若い者は……」と言う中高年世代がこの言葉を使う時は、何らかの嫉妬が含まれていることが多い。その中には「近頃の若い者は贅沢をしおって!」というものもあるという。最近、息子を大学に送り出し、これからも2人の子供が大学受験を待っているという50代会社員・A氏から壮大なる愚痴を飲みの席で聞いたというネットニュース編集者の中川淳一郎氏は、A氏の怒りをとりあえずは受けとめた。その中には、「若いくせにタクシーに乗りやがって!」という理不尽な怒りもあったという。中川氏が綴る。

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 いやぁ、参りました。A氏はこれから3人の子供を大学に送り込み、相当な学費がかかるわけで、緊縮財政なのは言葉の端々から感じられました。だから、その日はサイゼリヤでエスカルゴやポテト、フォカッチャなど安いものを食べてお父さんをさっさと自宅に戻したのですが、彼自身の年収はそこまで低くはありません。当然実際いくらかは言わないまでも、大企業の管理職なので、恐らくは800万円ぐらいはあることでしょう。

 世間水準からすれば高いものですが、同氏は東京都心のベッドタウンの駅から徒歩20分の場所に住んでおり、かつては駅からタクシーで1000円以下で帰ることもあったそうです。バスに長蛇の列ができている場合は、タクシーに乗るようにしたのです。現在は、極力バスに乗り、もしもバスが混んでいたら歩くようにしています。

 そんな中、A氏は若者が平然とタクシーに次々と乗り込む様子を最近毎日眺めており、敗北感に打ちひしがれているといいます。以下はA氏の言葉です。

「私よりも20~30歳も若い方が平然とタクシーに乗っているんですよ……。彼らよりもここまで長く社会人生活を経験しているというのに、私は自由にタクシーに乗れないような人生を送っている。他人と比較しても意味がないのは分かりますが、あんな若者が躊躇なくタクシーに乗る中、私はバスに乗るよりも歩いた方がいいのでは……みたいに考え、節約をしようとしているのが惨めでなりません」

 A氏は住宅ローンを返済中で、かつ将来の有益な投資になりえる3人のお子さんの大学進学に向けた貯金をしているだけに、そんな気持ちを抱くのはおかしいのでは、と伝えましたが、A氏はとにかく「若者がタクシーに乗るのを見るのが切なくて仕方がない」と言います。

 まぁ、確かにタクシーは贅沢品です。私の場合、どうしようもなく疲弊している時は、タクシーで仕事場まで行くことはあります。高速道路を使い、約3500円かかります。しかし、地下鉄であれば195円です。どんだけ贅沢をしているのか、と思うほか、3500円を支払うことへの罪悪感もあります。

 しかしながら、「切ない」は言い過ぎでは? とA氏に言うと、これはあくまでも感情の問題だというのです。

「大抵の場合、タクシーの運転手さんは中高年、場合によっては初老です。そういった人が恭しくドヤ顔の若者を後部座席に乗せ、若者は足を組んでふんぞり返ってスマホを見ながら『赤坂!』みたいに言うわけですよ。いや、そんな人ばかりではないのは分かりますが、そういう人も見ます。今、夏の暑い中、信号待ちをしていると、そんな姿の若者をタクシーの中で見ることがよくあります」(A氏)

 いやはや、これはさすがに被害妄想が過ぎるのでは、とも思うのですが、私自身も30代前半の頃、タクシーに乗った時に運転手から嘆かれたことがあります。夏の暑い中、短パン・Tシャツ・サンダルで乗車したのですが、運転手が途中でこう言ったのです。

「お客さん、お客さんは実際のところ、ウチのセガレよりも年下だと思いますよ。それがこうしてタクシーに乗れる身分ってのが正直羨ましいですよ。私なんて、普段タクシー乗ることないですからね。いや、お客さんにそんなことを言ってしまい申し訳ありませんが……」

 急いでいたので「たまには贅沢するか!」とばかりに乗っただけの話なのですが、運転手はキチンとした制服を着用している中、こちらは短パン・Tシャツというあまりにも適当過ぎる格好でした。それも年長者からすると、複雑な気持ちになったということでしょう。

 東京23区の場合、初乗り料金が410円になり、決して贅沢品とは言えなくなったかもしれないですが、410円あれば安いランチを食べることもできる額です。タクシーに乗る若者にしても、そこまで贅沢を普段しているわけではなく、たまたま乗っただけなのかもしれないのですが、年長者からすれば「贅沢をしやがって」「このセレブのフリ野郎」といった妙な被害妄想を抱いてしまうこともあるのだといいます。

 だからといってどうすればいいんだよ! と言いたくなる話ではありますが、基本的に「他人のカネ」というものは嫉妬するか見下す対象になるもの。些細なタクシー乗車であろうとも、人間界においては、マウンティングのどうでもいい題材となっているのです。

 こういった話を聞くにつれ、この社会は「カネを使ってラクをする奴は許さん」的空気があるのだなぁ、と思う次第です。

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