また、見栄えをよくするために、高層ビルの多くは鏡やステンレスなどをふんだんに使い、キラキラとした外観となった。だが、その分、室内は温度がつねに高くなり、エアコンを切ることができなっているのだという。
「電気がつねに必要になった。そのせいで、電気代が広域市全体上がりっぱなしなんだ」
これは社会問題なんだよとヨンジュンは呟いた。
いずれにしても、釜山の新しい繁華街ヘウンデ地区は、どこを向いても「リッチ」という言葉がついて回るような佇まいだった。インディゴのスタッフたちによれば、開発される前のヘウンデ地区は、ビーチこそ変わらないものの、もっと素朴な佇まいだったという。
だとすれば、こんなに「リッチ」な町になってしまったのはなぜなのか。
尋ねると、ヨンジュンは「前の広域市長のせいだね」と答えた。
前任で3期務めた釜山広域市長が、規制緩和のような形で建設許可をやたらと出した。加えて、韓国経済が急伸していく時勢の中で、投資マネーも流れ込んだ。
「そのせいで起きたのが経済格差。韓国でも、ヘウンデ地区ほど格差の激しいところはないと思う」
そして、その格差の大きさこそが、中高生向けに「キャンプ」として集中的に講演などで合宿をするきっかけだった。
今回のキャンプに集まっているのは、経済の区分けで言えば、真ん中より下の子たち。インディゴ書院のフア・アラム代表は、そう表現した。
「そのせいで勉強や進学、仕事に就くチャンスなどがやや制限されているというのかな。まあ、ちょっと将来への希望を抱くという点で難がある子。そういう子たちに、希望をどうもったらいいかを伝えるのが今回のキャンプの主旨なんですよ」
アラム代表はこのキャンプを実現するために、釜山広域市の教育局と数年前から話をしてきたという。
「韓国の子は、勉強はすごくさせられるの。受験勉強が大変だから。韓国の大学進学率は9割を超えるけれど、大学に入るために小学生から塾に通うのは当たり前。また、お金がある家はアメリカやカナダなどに留学もさせる。でも、それはお金がある家だけの話。多くの家の子にとって、そこまではできない。でも、そのできないという感覚が積み重なっていくと、どうしても挫折感になる。そこに格差の基本的な背景があるの」
そうした格差の一因には、単なる職種や収入の違いだけでなく、伝統的な慣習の影響もあるという。たとえば、女性劣位の待遇。今回通訳をしてくれたイ・キョンヒさんによれば、女性の給与所得は男性と同じ職種でも男性より2割程度低いのが一般的で、もし離婚した母子家庭などであれば、必然的に生活レベルが下がる。日本でも母子家庭は相対的貧困に入るリスクが高いが、韓国でも母子家庭の貧困は強く関係している。