作家・原田伊織氏


 一方で、皇軍として大東亜戦争を戦った親族を持つ私は戦没者遺族として、今も靖國神社を参拝して手を合わせる。他に身内の追悼のために行く場所がないからだ。そのように靖國神社に複雑な感情を持つ一人として、独善的な一元主義に基づく神社への「賊軍合祀」などという動きは、歴史の実態を知らぬ政治家の“お遊び”に過ぎず、迷惑千万と言わざるを得ない。

 選挙区が山口で吉田松陰を信奉する安倍首相は、来年、明治維新150周年での記念事業を国家行事として展開しようとしている。他にも現政権には、11月3日の文化の日を「明治の日」に変えようとしたり、戦前の教育勅語の肯定を閣議決定したり、完ぺきに“国粋主義化”している。

 中国やロシアの伝統的な侵略主義は断固認めないが、同じ次元に我が国を貶める安倍政権のこうした動きには全く賛成できない。テロを繰り広げて政権を簒奪した薩長は明治以前の日本を全否定して官軍史観を推し進め、天皇原理主義で国内を一色に染めて無謀な戦争に突っ走った。まずは負の歴史を検証して総括することが必要であり、それなしに維新150周年を国家行事として祝うべきではない。

「近代」と呼ばれる時代が世界中で行き詰まりを見せて、新たな処方箋が求められる今こそ、日本は「明治維新という過ち」を見つめ直すべきである。

■聞き手・構成/池田道大

※SAPIO2017年9月号

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