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夢のマイホーム ローン返済終わってもコストのかかる“負動産”に

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「夢のマイホーム」がまさに“負の遺産”に(写真:時事通信フォト)
「夢のマイホーム」がまさに“負の遺産”に(写真:時事通信フォト)

 総務省の住宅・土地統計調査では65歳以上の持ち家率は8割に達する。「夢のマイホーム」ともてはやされた時代、郊外に一戸建てを買い、退職金で住宅ローンの残債を一括返済して老後は余暇を楽しみ、いずれは子供に「資産」として残そうと考えていた人がほとんどだろう。

 いま政府が検討している年金受給開始年齢75歳引き上げが実施されれば、住宅ローンの返済計画が狂い、借金が残るから売るに売れず、結局収入がないのに毎月ローンを払い続けて「老前破産」の原因になる危険がある。

 ただ、それよりも恐いのは、苦労してローンを完済できても、自宅がコストのかかる“負動産”になることだ。住宅ジャーナリスト・榊淳司氏が語る。

「団塊の世代など現在の60代が持ち家ブームで買った一戸建てには、地方のターミナル駅からバスで20分といった小規模な住宅地が多い。高齢になって住み続けようにもバリアフリーや耐震補強の改修にはまとまったカネがかかるし、交通の便が悪く病院や介護施設に通うのも一苦労です。そんな立地となると、周囲には廃墟化した空家が増えている。賃貸に出して便のいい借家に住み替えるのが望ましいが、借り手はいないし、ましてや売れません」

 一戸建てではなく、郊外の同じような立地の中古マンションも悲惨だという。

「最初に買ったご夫婦から子供の代に所有者が世代交代すると、便が悪いから相続人は住まない。マンションに借り手も買い手もつかない空き室が増えていく。空き室でも相続人が管理費や修繕積立金をキチンと払うのであればまだいいが、滞納されるとマンション全体のメンテまで行き届かなくなる。必要な修繕積立金が足りなくなれば、壁面のタイルが剥がれたり、雨漏りなど至る所が壊れてくる」(同前)

 資産価値の低い物件は、どんどん価値が損われていく。その転落を止めるのも難しい上に、途中で手放すこともできない袋小路である。

 そうした不動産を相続する子供たちも悲惨だ。一戸建ては廃墟化すると治安が悪化し、危険度が増す。解体には100万円以上の費用がかかるうえ、更地にしたら固定資産税がハネ上がる。土地が売れなければ毎年税金を払い続けなければならない。

 もちろん、借り手がつかない中古マンションも管理費・修繕積立金で毎月1万~2万円を払わなければならない。

 子供に「資産」を残すつもりでせっせとローンを払ってきたのに、「不良債権」を相続させてしまうことになる。

「親父はなんでこんな金食い虫の不動産を残してくれたんだ」と恨み言をいわれたら死んでも死にきれまい。

 そうなることがわかっていても、高齢になって自分たちが住む家がなくなると困るから生活を切り詰めながらローンを払っていくしかない世帯が年金75歳支給時代になればあふれかえることになる。

(*週刊ポスト2017年9月8日号)

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