元関脇・琴錦の朝日山親方は、昨年千葉県鎌ケ谷市に部屋をおこした。中学卒業で相撲界入りしたため、相撲の強い高校・大学とのつながりがない親方は、奇跡の出会いを求めて日夜走り回っている。
道を歩いては一人の少年も見逃すまじと目を血走らせ、レストランで食事をする時も「あのか細いウエイターが未来の弟子かも」と思うと味わう暇などない。だから高木の「力士になりたい」との声を耳にして、朝日山親方は「F1相撲」と呼ばれた現役時代さながらのスピードで捕まえにいったのだろう。
朝日山部屋の一番弟子は、そんな地道な努力から発掘した朝日錦。中学卒業後コンビニでバイトをしていた彼を、朝日山親方は一目見てビビビと感じた。コンビニに通うこと五回、興味があったら連絡をくださいと名刺を渡す。それから半年考えた末に入門と相成ったのだが、半年とは結構長い時間のように思う。要するに彼は相撲には興味がなかった(野球とバスケットボールをたしなんではいたが、相撲は未経験)。
そんな朝日錦も弟弟子ができるにつれ、顔付きが変わってきた。昨年五月場所。私は、花道で朝日錦が某親方から声をかけられているのを聞いた。
「今日もみんな連れて来たの? 兄弟子だもんね。がんばってね」