ゼウスバローズの場合、長く休ませることでトラウマを最小に抑えられたのかもしれません。2015年12月に復帰後はコンスタントに競馬ができるようになり、16年8月までに9戦(1勝2着2回)。その後も8か月ほど休ませ、復帰2戦目の今年4月の京都1000万下で2着に入りました。

 実はその直前に、検査で腱繊維の配列が乱れていることが分かった。炎症の危険性です。ここが思案時。オーナーと相談して、1回使って様子を見ようということになった。競馬を止めてしまう懸念もあった。わたしはドキドキしながらレースを観ていました。それでもあれだけ走れた。馬は痛みの不安がなく走ることができたのでしょう。つまり「痛みの記憶」に囚われることがなかった。

 そして1か月後の5月21日の東京の調布特別(芝1800m、M・デムーロ騎手)。角居厩舎は前の週に12週連続勝利の新記録を達成していましたが、この週はここまで6戦して未勝利。このレースでもスタートで出遅れて道中は最後方、直線に入っても前は遠いと思われましたが、ラスト200mから猛追、33.0という上がりタイムで差しきったのです。

 鳥肌が立ちました。私にとっては、厩舎の13週連続勝利以上に、ゼウスバローズが故障を克服して勝ってくれたことの方がうれしかった。

●すみい・かつひこ/1964年石川県生まれ。2000年に調教師免許取得、2001年に開業。以後15年で中央GI勝利数23は歴代3位、現役では2位。今年は13週連続勝利の日本記録を達成した。ヴィクトワールピサでドバイワールドカップ、シーザリオでアメリカンオークスを勝つなど海外でも活躍。引退馬のセカンドキャリア支援、障害者乗馬などにも尽力している。引退した管理馬はほかにカネヒキリ、ウオッカなど。『競馬感性の法則』(小学館新書)が好評発売中。

※週刊ポスト2017年9月8日号

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