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競走馬のトラウマ、超良血馬が走った途端にエビになる

角居調教師が「エビ」について語る

 数々の名馬を世に送り出した角居勝彦調教師の厩舎はこの春、13週連続勝利という日本記録を打ち立てた。記録の立役者になったのは、屈腱炎を克服した6歳牡馬だった。角居氏による週刊ポストでの連載「競馬はもっともっと面白い 感性の法則」から、「トラウマ」について解説する。

 * * *
 競走馬のメンタルを蝕むトラウマについて。もっともやっかいなのは「痛み」です。馬も人間も、痛みには弱い。痛いと足が止まる。動物の防衛反応だからどうしようもありません。ノーペイン・ノーゲインなどというけれども、痛みに耐えてゲインする馬はいないのです。

 痛みの体験が不安を生みます。賢くて臆病な馬は痛みが出る手前で走ることをやめてしまう。ゼウスバローズは、ダービー馬ディープブリランテの全弟という超良血馬ですが、エビ(屈腱炎)との長い闘いがありました。2歳時に勝ち上がりましたが、クラシックシーズンを控えた2014年3月から半年間休養、秋に復帰し10月の京都芝2200m500万下を勝った後も1年以上レースに使うことができなかったのです。

 エビは再発の可能性も高く、競走馬にとっては極めて厳しい故障といわれます。ところが、その過程には痛みがない。それまで問題なく走っていたのに、放牧先で走ったとたんにエビになることがある。疲労して硬くなっていた腱が、動き出しのときにぶちっと切れて出血すると、エビの初期症状。でもその段階で痛みはないわけです。しかしやがてピシッというような鋭利な痛みを感じると、走れなくなる。「痛みによるブレーキ」です。

 プロ野球のピッチャーのケガと似ているかもしれません。肘に痛みが出るまで、腕がだるいとか重いなどの段階ではまだ全力で投げられる。でも痛みを感じるとダメ。痛みに対する恐怖が残り、以前のようにダイナミックに腕を振れなくなるそうです。不安が萎縮を呼ぶのです。

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