〈四十二歳って、思ったより大人じゃなかったな〉という小柳の呟きには〈まだ若いことに対する痛み〉がにじむ。それを〈まだまだこれからなんだよ〉と手前勝手に解釈する松井も、〈人格的な成熟と社会的な成功は正比例しないという当たり前の事実〉に直面する一人だった。
人は若くても老いても悩み、ちょうどいい年齢などないからこそ、彼らは昔懐かしい友と今を生きる。読めば読むほど発見のある、いい小説である。
【プロフィール】たなか・ちょうこ/1964年富山県生まれ。大学卒業後、会社員を経て専業主婦。「営業を8年頑張ったので、そろそろいいかなと思って。それからは戯曲教室に通ったりして、40代から小説を書き始めました」。2011年、鬼神を写した能面・べし見に似た女性器を持つ40代女性の恐怖と混乱を描く「べしみ」で第10回女による女のためのR-18文学賞大賞を受賞、2014年同作所収の『甘いお菓子は食べません』でデビュー。150cm、AB型。
●構成/橋本紀子 ●撮影/三島正
※週刊ポスト2017年9月8日号