妻を紹介する時は「my dumb wife」(愚妻)で、手土産は「worthless gift for you」(つまらないものですが)に。場合によっては「つまらない」を「boring」(退屈)だと把握し「boring cookies for you」と意味不明の言葉になってしまう。
さらには冗談めかして「my wife obeys me」(彼女は私に従う=亭主関白)なんて言おうものなら、人格を疑われてしまう。逆に「my wife is like a demon」(鬼嫁)なんて言い、キリスト教徒からすればケンカを売っているのかと思われる。
アメリカ人は身内であろうがとにかくホメる。ドナルド・トランプ米大統領のスピーチを見ていると、家族や自分の周囲の人間をいかにベタ褒めかが分かるだろう。あそこまでやらずとも、自分の子供がいかに勉強ができるかを力説し「彼は天才だ」なんてやるのは当たり前。お土産渡す時は「あなた、絶対気に入るわよ!」と自信満々。どんなに恋人女性が太っていようが、ビーチでビキニを着た彼女の腰を抱き、男は「彼女はキュートだろ?」なんて満面の笑みで言う。そして2人は「ウ~~~ン」なんて言いながら濃厚なキスをするのである。
インスタグラムは基本は写真なので、「自慢したい気持ち、察して、ネッ!」という寸止め状態でアメリカ人的行為をできる便利なツールだ。ツイッターは文字中心なだけに自慢はご法度で、日本では基本的には自虐文化である。ラーメン屋の行列で並んでいたら自分の前でスープがなくなってしまったことや、合コンで誰からも喋ってもらえなかったことなどを報告し、共感を得ようとする。
インスタ映えはこうした傾向を写真1枚で打ち破れるのだ。ナイトプールで水着美人だらけの様子を見せれば「私の友達皆美人、でも私が一番かわいい。しかも私が一番痩せているの」を一切の言葉を使うことなくアピールできる。まだ文字でこうした自慢をするには生々しい。自虐文化(エセ慎ましい文化)打破の第一歩としてのインスタ映えブーム、いいじゃないか。
●なかがわ・じゅんいちろう/1973年生まれ。ネットで発生する諍いや珍事件をウオッチしてレポートするのが仕事。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』など
※週刊ポスト2017年9月15日号