ぼくは、夕張市が財政破綻した2007年、夕張市で医療を立て直そうとしていた村上智彦医師と出会った。彼は、北海道瀬棚町(現せたな町)の日本一高かった老人医療費を、一人当たり70万円台にまで減らした実績をもっている。

「炭鉱の町だった夕張市は、観光に脱皮しようとして破産した。もっと早く健康の町づくりをしていればよかったんですよ」

 タンコウ、カンコウ、ケンコウと繰り返す村上医師の言葉はとても印象的だった。村上医師は今年、白血病で亡くなった。

 NHKのAIが「健康になりたければ病院を減らせ」と提言した背景には、村上医師をはじめ数人の志のある医師たちが、病床数が少なくなっても医療の質を落とさないように、在宅医療や健康づくりの意識を広めていた事実がある。そのことを知らなければ、AIの提言は一人歩きし、フェイクのように都合よく利用されていく。

 ぼくたちは氾濫する情報を無防備に浴びすぎている。事実をどう解釈するか。事実の裏側にあるものは何か。自分にとって都合のいい事実ばかり鵜呑みにしていると、いつまでたっても内向きの世界から出られない。

 内向きに閉ざされた世界は、さまざまなフェイクを生み出す温床となり、事実を改ざんしていく。その世界でうまくやろうとする忖度バカも発生する。そして、その先には、権力が管理統制する自由のないディストピアが口を開けて待っているのである。小説ではないから、こわい。

●かまた・みのる/1948年生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県の諏訪中央病院に赴任。現在同名誉院長。チェルノブイリの子供たちや福島原発事故被災者たちへの医療支援などにも取り組んでいる。近著に、『検査なんか嫌いだ』『カマタノコトバ』。

※週刊ポスト2017年9月15日号

関連記事

トピックス

元通訳の水谷氏には追起訴の可能性も出てきた
【明らかになった水原一平容疑者の手口】大谷翔平の口座を第三者の目が及ばないように工作か 仲介した仕事でのピンハネ疑惑も
女性セブン
文房具店「Paper Plant」内で取材を受けてくれたフリーディアさん
《タレント・元こずえ鈴が華麗なる転身》LA在住「ドジャー・スタジアム」近隣でショップ経営「大谷選手の入団後はお客さんがたくさん来るようになりました」
NEWSポストセブン
日本テレビの杉野真実アナウンサー(本人のインスタグラムより)
【凄いリップサービス】森喜朗元総理が日テレ人気女子アナの結婚披露宴で大放言「ずいぶん政治家も紹介した」
NEWSポストセブン
歌う中森明菜
《独占告白》中森明菜と“36年絶縁”の実兄が語る「家族断絶」とエール、「いまこそ伝えたいことが山ほどある」
女性セブン
伊勢ヶ濱部屋に転籍した元白鵬の宮城野親方
元・白鵬の宮城野部屋を伊勢ヶ濱部屋が“吸収”で何が起きる? 二子山部屋の元おかみ・藤田紀子さんが語る「ちゃんこ」「力士が寝る場所」の意外な変化
NEWSポストセブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン
羽生結弦の元妻・末延麻裕子がテレビ出演
《離婚後初めて》羽生結弦の元妻・末延麻裕子さんがTV生出演 饒舌なトークを披露も唯一口を閉ざした話題
女性セブン
古手川祐子
《独占》事実上の“引退状態”にある古手川祐子、娘が語る“意外な今”「気力も体力も衰えてしまったみたいで…」
女性セブン
今年の1月に50歳を迎えた高橋由美子
《高橋由美子が“抱えられて大泥酔”した歌舞伎町の夜》元正統派アイドルがしなだれ「はしご酒場放浪11時間」介抱する男
NEWSポストセブン
ドジャース・大谷翔平選手、元通訳の水原一平容疑者
《真美子さんを守る》水原一平氏の“最後の悪あがき”を拒否した大谷翔平 直前に見せていた「ホテルでの覚悟溢れる行動」
NEWSポストセブン
STAP細胞騒動から10年
【全文公開】STAP細胞騒動の小保方晴子さん、昨年ひそかに結婚していた お相手は同い年の「最大の理解者」
女性セブン
逮捕された十枝内容疑者
《青森県七戸町で死体遺棄》愛車は「赤いチェイサー」逮捕の運送会社代表、親戚で愛人関係にある女性らと元従業員を……近隣住民が感じた「殺意」
NEWSポストセブン