「寄席に行くと改めて講談は凄いなと思うんです。でも、生意気ですが、この演者たいしたことないな、面白くねーって思うことも多くて。初めての観客が多いのになぜつかみで面白い話をしないのか。ここをちょっと分かりやすくするだけでも客の反応が変わるし、自分ならこうするのにと思っていました」
とはいえ、大学生の松之丞には何の手立てもない。入門後を見据えて、客席で講談師に必要なことを吸収していった。
「その時、大事だなって思ったのは、客席から舞台を見てお客様の気持ちを理解すること。プロになると客席から見られないので、それを自分の中に叩き込みました。ドラクエでいうとレベル100にして満を持しての入門でしたね。
ただ、入門先はシビアに判断しました。僕は自分がやりたいようにやりたかった。普通、入門してそんなことすると潰されるんです。でも、僕が入門した神田松鯉師匠は自由にやりながら高レベルの芸能をして、人格者と言われていた。僕が講談の世界に入ったのは、松鯉師匠に出会えた奇跡があったからです」
入門してから10年、古典の「連続物」が真骨頂だが持ちネタは130席になった。十八番の1軍(40本)、2軍(50本)、3軍(30本)に分けて頭の中で管理している。
「芝居の方は終わったら台詞を忘れるようですが、講談は積み重ねていくイメージ。一度覚えたものは、時間はかかるけど頭から全部取り出せます」