問題は、安倍政権がすでに前例のない政策の数々を「途中まで」進めてしまったことだ。一連の経済政策には、失敗した時のリスクもあれば、政策遂行に伴って本来必要だったセーフティネット整備もある。あるいは、高支持率だったからこそ美辞麗句で覆い隠せた嘘や誤魔化しもあった。
「一強」政権から、いきなり「死に体」政権に転落したことで、日本社会と経済にかつてない巨大なリスクだけが残されたのだ。
アベノミクスの中心人物たちの存在感もなくなった。内閣参与として経済政策のブレーン役だった元財務官僚の本田悦朗氏は昨年6月に大使としてスイスに赴任してしまい、大胆な金融政策の舵取り役を担ってきた黒田東彦・日銀総裁も「デフレ脱却という目標達成への道筋が全く見えず、来年4月の任期切れで交代する公算が高い」(同前)とみられている。
いってみれば、“難易度の高い手術に挑戦する”と大見得を切ったものの、開腹しきったところで、メスを握る医師たちが意欲を失ってオペ室から去ってしまったような状況だ。
「危険な状態のまま放置された患者」は、もちろん国民である。
※週刊ポスト2017年9月22日号