葬式にしろお墓にしろ、故人の希望はなるべく叶えてあげたいもの。父が死んだら骨を山に撒いてほしいと願っているが、そのようなことは可能なのか? 弁護士の竹下正己氏が回答する。
【相談】
末期がんで闘病中の父が、最近よく幼少の頃を思い出すみたいなのです。当時、自分が走り回って遊んだ故郷の山を懐かしがります。そのせいか死んだら骨を実家の裏山に散骨してほしいと願っています。その裏山の所有者が承諾していただけたら、父の骨を少しでも山に散骨することは問題ないでしょうか。
【回答】
散骨は、遺骨の粉を山や海などに撒く弔いの一種です。刑法190条は「死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊し、遺棄し、又は領得した者は、三年以下の懲役に処する」と定めています(死体損壊・遺棄罪)。
以前に、火葬後に残った遺骨の灰を遺留したことが死体遺棄に問われた事件で「遺骨とは、死者の弔い等のために保存される骨骸をいい、火葬した後に残った灰について遺棄に当たらない」とした判例がありましたが、火葬後の骨は人骨の外観をとどめています。散骨には、粉状に粉砕する必要があり、粉にされた遺骨は「遺灰」と違います。そこで粉砕が「遺骨の損壊」に、散骨が「遺骨の遺棄」に当たらないか気になります。
この点、節度を持って行なえば罪にならないとの見解があります。ですが、公式なものではなく、また、散骨の刑事責任を判断した事例もありません。とはいえ死体損壊・遺棄罪は、死者に対する社会の宗教的感情を保護するものです。散骨が社会的に認知されつつある今日、真摯に弔う散骨であれば、この保護法益を侵害するとはいえず、処罰されないと思います。