養成所を卒業してからは、俳優座に所属している。

「俳優座では初めての舞台から重要な役をいただきました。千田是也先生演出の作品が多かったですが、先生は厳しかった。

 芝居の流れの中でのリズムを大事にされていて、そこが違うと足で床を叩いて『違う!』とおっしゃる。それが怖かったですね。特に大事にされていたのは物言いのリズムで、セリフの語尾を伸ばさないでハッキリ分かるようにしないといけない。

 それから、三島雅夫先生には『舞台は歩くに始まり、歩くに終わる』と教えられました。舞台でずっと自然に歩けるようになることが、まず役者としての基本だということです。役柄によって歩き方が違ってくることがありますし、心の中の動き方が変わっていくのに従って歩き方も変わっていきますから。

 それから、その役柄がどういう生活をしてその場面に出ていくことになったのか。舞台に出てから始まるのではなく、その前の時点でその役柄がどんな動きをしてどんな生活をしていたのかを考えて表現するようにも教わりました。その場面に出る前にどんな生活をしていたのかも、舞台の上で体に出てくる必要がある。つまり、舞台の上でその役柄が生きるということは、出る前もその役として生きていなきゃいけないということなんですよね。そういった役としての奥行きも、役者は表現しないといけないと思っています」

●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。

■撮影/藤岡雅樹

※週刊ポスト2017年10月6日号

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