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【著者に訊け】山口ミルコ氏 『似合わない服』

「本当に好きならいいけど、流されるのは絶対ダメですよね。一人一人は賢明でも時流一つでバブルすら生みかねないのが歴史の教訓。その愚かさに気づき、身の丈に合う生活を大切にする人も増える中、何の根拠もない好況や不安を煽られるのは、二度と御免ですから。

 確かに私はあの頃の自分をこうして書けるようにもなった。でもそれは〈ぜんぶイエスでぜんぶノー〉というか、否定も肯定も関係なく存在した時間だから。そう思えてからは魂のライブ感が凄まじいんですよ。仮に安心安全な日本という土台が失われてもこのツブ魂があれば大丈夫、というくらい安心感がある。その内なる声に耳を傾ける限り、他のツブとも自由で緩やかに連携していけるんです」

 かつて毎朝通ったマックもベンツを停めた駐車場も、〈前はあったが、いまはない〉。そんな似合わない服を着た時代の全てを彼女は慈しみ、一人一人が多様な生を営むツブ立ちのよい社会へと、新たな一歩を踏み出すのだ。

【プロフィール】やまぐち・みるこ/1965年生まれ。専修大学文学部英米文学科卒。在学中はビッグバンドでサックス&クラリネットを担当。角川書店を経て幻冬舎創業に参加、2009年の退社直後、乳癌が発覚し、手術や抗癌剤治療と闘う日々を綴った『毛のない生活』が話題に。2015年には帝政時代からロシア経済を支えた毛皮産業の今を追う『毛の力 ロシア・ファーロードをゆく』を上梓。「父は商社時代、ロシアと関わりが深く、ロシア語で世界・平和を意味するМИРからミルコと名付けてくれました」。160cm、O型。

◆構成/橋本紀子 撮影/三島正

※週刊ポスト2017年10月13・20日号

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